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評者◆秋竜山
笑えるような笑えない話、の巻
No.3228 ・ 2015年10月31日




■人間は馬鹿げたことをよろこぶ。馬鹿げていればいるほど大よろこびをする。落語がよろこばれるのは、馬鹿げた話であるからだ。よろこばれない落語は、話の内容が馬鹿げていないからである。古典落語が時代を越えてよろこばれるのは、時代を越えた馬鹿げた話であるからだろう。だから時代〃〃に受けつがれるのだろう。「まるで、マンガのようだ」と、いう表現もマンガのように馬鹿げているということだ。面白くないマンガもあったりする。それは、馬鹿さ加減がたりないからだろう。そして、落語もマンガも笑いの主役は人間であること。笑いは、その時代〃〃にうみだされるものであり、人間は笑い好きというより笑いから逃げることはできない。その昔、あの戦争の頃、「風船爆弾」プロジェクトというのがあったそうだ。古川武彦『気象庁物語――天気予報から地震・津波・火山まで』(中公新書、本体七四〇円)で、このことを取り上げている。やっぱり馬鹿〃〃しくもかなしいくらい面白いから忘れられないのだと思う。
 〈昭和一七年(一九四二)晩秋、中央気象台の技師であった荒川秀俊は病気を患い南太平洋に位置するニューブリテン島のラバウルに逗留していた。(略)荒川は無人の風船を使って、米国を攻撃する手はないものかと夢に描いていた。いわゆる「風船爆弾」である。〉(本書より)
 荒川はシンケンに、これはいけるぞ!! と、思ったに違いあるまい。そして、本人はもちろんヒトを笑わせる発想とは思えず、これで日本を救えるとさえ思っただろう。なぜならば、荒川秀俊は、
 〈やっとの思いでラバウルから帰国するや否や、中央気象台長の藤原咲平を介して、陸軍および海軍に風船爆弾のアイデアを具申した。〉(本書より)
 本人にしてみれば、日本国を想う気持として当然なことをしたといえるだろう。そこで、私は考えてしまう。もし、これが、マンガ家の風船爆弾の発想であったとして、コーフンして陸軍に駆け込んだとして、どーなるのだろうか。その頃の日本は全国的に頭の中がどうかしていたかもしれない。いかにしたら米国に負けないか、それで頭の中はいっぱいだっただろう。みんな戦っていたのだ。今になって思うことは、当時、何が笑えるかというと、上陸した米国の兵隊を竹ヤリで突っつくのだといって大人から子供まで訓練をさせられていたのであった。その時、馬鹿〃〃しいといって笑う国民はいただろうか。その風船爆弾のアイデアをマンガ家が陸軍に持っていって、どーなったのか知りたくもある。
 〈荒川秀俊は後に気象研究所長となる技術畑の人である。昭和六年に東京帝国大学物理学科を卒業し中央気象台に入った。〉(本書より)
 陸軍は戦局を反転するべく風船爆弾をつくって米国にむけて飛ばしたのであった。
 〈昭和一九年一一月より翌年四月までの間、茨城県や千葉県の海岸から約九〇〇〇個の風船爆弾が放流されたが、実際に北米に到達したのは、約三〇〇個と言われている。米国では、その成果が日本に漏れることを恐れて風船爆弾の被害はほとんど報道されなかった。〉(本書より)
 と、いうことは成功したのではなかろうかと思えてくる。結局は「風船爆弾」の物語は、わけのわからないままで終わりとしてしまっているのだ。それで、いいのかわるいのか。笑えるような、笑えないような。







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