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評者◆石本秀一(ジュンク堂書店ロフト名古屋店)
名古屋市の16の区を舞台にしたショートストーリー
名古屋16話
吉川トリコ
No.3228 ・ 2015年10月31日




■2004年に「女による女のためのR―18文学賞」の大賞と読者賞を受賞しデビューした吉川トリコさんは名古屋在住で、作品の中には名古屋市やその周辺が舞台になっているものもいくつかあります。またうちのお店をよく利用してくださるお客様でもありまして、店内のコミックコーナーにはトリコさんがおススメするBLコミックを手書きPOP付で並べる「トリコの偏愛BL棚」という常設コーナーがあったりもします。
 そんなトリコさんの著書の中でいちばん売れているのが『グッモーエビアン!』(新潮文庫)なのですが、この本の在庫が残りわずかになってしまいました。2012年には麻生久美子、大泉洋、三吉彩花(10月から始まったドラマ「エンジェル・ハート」のヒロイン)、「あまちゃん」でブレイクする前の能年玲奈などが出演する映画が公開されたりしたのですが、最近では出版元で在庫切れになったままで注文することもできません。名古屋を舞台にちょっと風変わりな一家を描いたおもろあったかい家族小説で、トリコさんの名刺代わりと言ってもいい本だと思うのですが、近いうちに手に入らなくなりそうなのがとても残念です。読みたいと思った方はぜひお早めに入手することをおすすめします。
 『名古屋16話』はもともと「中日新聞ほっとWeb」というページに月一更新で連載された、名古屋市の16の区それぞれを舞台にしたショートストーリーでした。連載が始まってしばらくたった頃、「書籍化される予定はない」ということをトリコさんから聞き、「そんなもったいない……、こんなに面白いのに。なんとかならんか?」とポプラ社の知り合いにプッシュしたりしたこともあったのですが、そのこともひとつのきっかけとなり、こうやって単行本として出版されることとなり、うれしく思っています。
 新聞社の媒体での連載ということで、いろいろな世代の人に読まれることを前提として書いたショートストーリー集は、登場人物もバラエティに富み、お話ごとにテーマも変わります。中区を舞台に「女性はいくつになっても女の子なんだなぁ」と感じさせる第一話をはじめとして、名古屋に暮らす人ならば、特に自分の住んでいるところならば、その場所の空気までも感じることができる風景を舞台に、うまくいかない恋愛、ちょっぴり切ない家族、SKE48に夢中な女の子、震災のあの日、呑んべえ作家・河村(なんかよく似た作家を知っている)の話、とある書店の一日などなどと、実に様々な物語が綴られています。それらを読み終えて思うのはどんな街でも(そこがごくありふれた場所であっても)、どんな人にもきっとそれぞれにドラマティックな場面に遭遇することがあるのではということです。普通の人々の普通の暮らしの情景の中からトリコさんが切り出して、素敵な入れ物に箱詰めして贈ってくれたかのような物語を集めたこの本は、トリコさんにとっての新たな「名刺代わりの一冊」になることでしょう。名古屋の書店として大事に売っていきたいと思う一冊です。







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