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評者◆秋竜山
逃げまわる植物、の巻
No.3227 ・ 2015年10月24日




■考えてみれば、ふしぎである。植物というもの。動物とはまったく違う。その場から一生動くことをゆるされない。ゴーモンのような毎日ではないか。田中修『ふしぎの植物学――身近な緑の知恵と仕事』(中公新書、本体七六〇円)。動かない大木をみた時、堂々とした一生ともいえる。そして、ふしぎなのは、動きのとれない生活の中で生きているということだ。人間の寿命が一〇〇年たらずなのに、千年以上も生き続けている。一歩も動くことをせず、その場に立ち続けているのである。人間のようにコセコセしていないということだ。
 〈植物たちは、自然の中で、まわりの生物たちと闘い、身を守って生きている。では、実際に、自分の暮らしている環境をどのくらい感じているのだろうか。私たち人間が直接知るのはむつかしい。しかし、植物たちが環境を感じる感覚をどれくらい持っているかは、想像できる。私たち人間には感覚があり、代表的な五つの感覚が「五感」と言われる。目で見る視覚、耳で聞く聴覚、鼻でかぐ嗅覚、舌で味わう味覚、皮膚で感じる触覚である。植物たちに、これらの感覚があるのだろうか。〉(本書より)
 植物と人間は話はできない。できないけれど、多分、植物はこのような考えをもっているのではないか、などと勝手かもしれないが想像したりする。植物の行動そのものが、そのように想像させてしまうようだ。本書では面白いことが述べられている。
 〈植物たちは、ストレスと闘い、からだを守って生きている。しかし、植物たちには、植物であるがゆえの運命がある。それは動物に食べられることである。(略)植物は、すべての動物の食糧の源であり、よく食べられる。もし植物たちが逃げまわって動物に食べられることを完全に拒否したら、動物は生きていけない。逃げまわらなくても、植物たちが、からだの中に有毒な物質をつくり、動物に食べられることを完全に拒んだら、動物は生きていけない。〉(本書より)
 もし、動物が植物を食べようとすると、植物は身のキケンを感じて、逃げだす。それを、動物は追う。植物は逃げ動物が追う。地球上は、にぎやかなものになるだろう。ノロマの動物は植物に逃げられてばかりいるだろう。たとえば、明日はお米の刈り取りというその前夜、田の米たちが一斉に夜逃げしてどこかへ行ってしまった。なんてことになったらどーしましょう。
 〈植物たちは、手探り状態の暗闇の中で上と下を、どのようにして知るのだろうか。植物たちは、重力を感じているのだ。重力というのは、地球上の物体が地球から受ける力であり、地球の中心に向かって引き寄せられる力がある。根の先端は、重力の方向に向かって伸びる性質がある。だから、地球の中心、すなわち、下に向かって伸びる。〉(本書より)
 植物の根の先端は地球の中心に向かって伸びる性質がある。と、いうことは、たしかにいわれてみればそーかもしれないが、植物の根のことなど考えることもない。第一、地面の下には植物の半分が生きているという発想などないだろう。そして、植物にとって、地面の上も下も暗闇の世界であるということも、考えもしないことである。







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