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評者◆高橋宏幸
連鎖するイメージのあいだ――ストアハウスカンパニー公演『Remains』(@上野ストアハウス)
No.3225 ・ 2015年10月10日




■東京に「上野ストアハウス」という小劇場がある。もとは江古田駅前のビルのなかにあった劇場だが、数年前に移転を余儀なくされた。その劇場を運営する木村真吾は、同時にストアハウスカンパニーという劇団も主宰している。いや、劇団のために劇場も運営しているといった方がいいかもしれない。
 かつては劇団が、いつでも稽古や公演ができるように、アトリエや劇場をもつことは当たり前のことだった。たとえ、経済的に合理性がないとしても、場そのものを創り出すという理念があった。だから、たとえ貸し館としての運営があっても、自然とその劇場は独自の色をもった。むろん、自主企画もある。江古田時代のストアハウスならば、フィジカルシアター・フェスティバルと銘打って、国際フェスティバルを開催していた。それは、二〇〇〇年代にいくつものアジア地域の演劇を日本に紹介する重要な役割を負った。アジアの劇団の一つとしてストアハウスカンパニーの作品も上演されたのだ。
 上野に移ってからはフェスティバルという形式ではなく、一つの国に絞って韓国やマレーシアなどの劇団を招聘している。そして、その影響と一概に括ることはできないだろうが、ストアハウスカンパニーの作品も以前と比べたら、間違いなく変容を遂げている。彼らの作品は言葉がなく、フィジカルシアターと呼ばれるパフォーマンス作品だ。「箱」、「縄」、「Ceremony」など連作シリーズがあり、そのどれもが基本的にはフォーカスされたある物体
と、パフォーマーたちが接触や交錯を繰り返して構成される。
 たとえば「箱」シリーズでは、置かれたいくつもの箱を積み上げたり、降ろしたり、その周辺を歩いて、箱で道を作ってその上を歩くなどする。その反復的な行為によって作品はつくられる。パフォーマーの身体と物体との可変的な境界線が示されるのだ。何度も反復される行為と扱われるもの自体に違いはあっても、どの作品も基本のコンセプトは同じだ。「Ceremony」では、舞台一面に積み上げられた古着の中を歩き、転げ回り、それを踏み込みながら、最後には自身の身体と衣服が絡み合う。
 今回上演された作品『Remains』も同様だ。これは、主にストッキングで身を包んだパフォーマーの一群が、群れとなり、抱きかかえたり、転がったりしながら、さまざまな行為を繰り広げる。その意味では、たとえメンバーのパフォーマーが変わることによって微細な差は現れても、作品が提示しようとする世界は、行為によってその意味性を剥奪していく作業だ。それは、ストアハウスカンパニーの全ての作品に共通する。だから、パフォーマーたちの身体は、確固たる作品の形式に投げ込まれ、そこから零れ落ちる微細な差異が抽出されていた。
 しかし、今作は今までと違い、むしろ同じ行為の中にあっても目指すものに差が現れていた。たしかに、パフォーマーたちが行うことは同じように見える。だが、そこから生成されるイメージとして、少なくとも観客へと提示されるイメージは、同じ行為、同じ身振りをしているはずなのに、今までとは違うのだ。それは、もはや量ではなく質の差といっていい。いわば、強固な形式にパフォーマーの身体が入れられるのではなく、もっと緩くそれぞれの身体が共存することを赦しているかのようなのだ。だから、いつもと同じ振る舞いをしているはずなのに、そこから現れるイメージは明らかな違いがある。動くことの純粋性を得るために運動を要するというより、むしろそこから派生するさまざまなイメージを自由に観客が甘受できることへと傾いているのだ。
 それは、観るものにとっては、まるで虫のような集団の動きに映るかもしれないし、人間という動物たちの群れに映るかもしれない。それぞれがもつ記憶の中にある接点と結びつけようと、浮遊するかのようなイメージを置こうとする。だから、行われていることはいつもと同じなのだが、パフォーマーたちの行為と観客の受け取るイメージには、大きな落差が現れてくる。その自由さこそが、強固な形式の作品を追い求めるのではなく、多様な複雑性の中の価値を提示する「アジア」の作品との接点を経て得たものと言うのは言い過ぎだろうか。
 劇場が移転して新たな展開をしているように、集団であるストアハウスカンパニーの作品も、あらたな転換を迎えているのかもしれない。







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