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評者◆秋竜山
みんな少年ガリレオであった、の巻
No.3225 ・ 2015年10月10日




■誰でも高い所へのぼりたがる。展望台がある。そして、高層ビルは高さをあらそう。なぜ、高さなのか。高いほど、遠くが展望できるからだ。なぜ、遠くを展望したがるのか。遠くがあるからだろう。もし、遠くがなかったら、高いものなどつくらないだろう。展望台へいくと必ず望遠鏡がある。遠くを近くに眺めたい心理からだろう。近くを遠くに眺めたいということはありえるだろうか、と考えてみたら、あった。昔、箱庭というものをつくった。小さな箱の中に遠くの風景をとじこめるようにしてつめこんだ。そして、近くを遠くに見てたのしんだ。ジオラマというのがそうだろう。つまり、ヒトの持つのぞき見趣味というやつだ。ヒトは見えないものを見たがるものだ。望遠鏡の発明は、そんな欲望によるものなのか、どうかは知らない。
 池内了『宇宙論と神』(集英社新書、本体七四〇円)では、望遠鏡について述べられている。
 〈神が天を差配しているという観念が強くなると、天はどこまで続いており、そこにはいかなる天体や運動があるかを明らかにすることが神の存在証明であり、また神へ接近する方法となる。始めは人々の宇宙は太陽系に閉じていたが、望遠鏡を手にするようになってからは無数の星の世界、(天の川)銀河、星雲、島宇宙、そして銀河宇宙へと拡大していった。(略)それは、より遠くの、より暗い天体まで視野に収める技術の勝利であるとともに、神の隠れ家を探索しようとする天文学者の執念がもたらしたものと言える。〉(本書より)
 宇宙を神の隠れ家とする発想は面白い。たしかに神は宇宙のどこかに隠れていそうだ。望遠鏡といえば、望遠鏡をのぞくために生まれてきたような人間として、すぐ頭に浮かぶのが、ガリレオだ。望遠鏡をだいて寝るかどうかは知らないけど。だからといってガリレオは展望台から遠くの街並みや山や川や森などを望遠鏡でのぞいたりはしなかった。空を見上げるようにしてのぞいてばかりいたから、ガリレオになれたのである。外国マンガにこんな作品があった。天文学者とおぼしきヒト。天にむかって望遠鏡をのぞいている。望遠鏡も子供が持つようなもの。それだけならマンガにはならない。その天文学者は、自分の座っている椅子の上に立ちあがって、天体をのぞいているのである。まるでマンガのような行為をしている、これぞ、ガリレオだろう。
 〈一六〇九年、ガリレオが望遠鏡を手にして宇宙を観測した。そして、そこに発見したのはまさしく多様に展開する世界の姿であり、アリストテレスが示した単純な宇宙像とは異なったものであった。〉(本書より)
 私が子供の頃の空は、空そのものであった。昼の明るい空が、夜になると暗い空に変化する。夜空には星がひしめきあっていた。望遠鏡といったら、雑誌などのふろくにあった紙を組立てたレンズ付きのものであった。それで夜空をながめたのであった。みんな少年ガリレオであった。あの頃の空には神がいただろう。そして夜空の星が消えると共に神の姿も消えていった。あの頃、屋根にのぼって星空をながめていて、叱られたものであった。「落ちたってしらねえぞ」と、いって叱られた。







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