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評者◆第10回 千葉県・八千代市立中央図書館・出光良館長
地域の子育て拠点を目指して~週3回・無料の一時保育サービスが好評――子どもを規則で縛らず、自由に活用してもらう図書館に
No.3225 ・ 2015年10月10日




■2015年7月1日に開館した八千代市立中央図書館(千葉県)は、県内初となる図書館利用者向けの無料一時保育サービスが好評だ。サービス開始時は一ケタだった人数も、利用者同士の口コミ、ブログへの投稿などで評判を呼び、利用上限に近い約30人にまで増加した。週3回の実施で完全無料という、全国的にも珍しい手厚い対応も好評の理由のようだ。指定管理者として同館を運営する図書館流通センター(TRC)の出光良館長は「同館は、皆さんに楽しく過ごしてほしいという基本理念を持っている。その理念の大元になるのが一時保育サービスだと考えている。将来的には図書を介した地域の子育て拠点になれれば」と話す。出光館長に開館から現状までについて話を聞いた。

■開館直後の土・日に7600人が殺到
 ――今年7月にオープンしてから約2カ月(取材当時)が経過した。市民の反応は。
 「ある程度の人出は予想していたが、最初の土曜日は3600人、日曜日には4000人超と想像をはるかに超えた。とくに、児童図書エリアは足の踏み場もないほど、多くの親子連れで賑わった。その人出も8月の盆明けから徐々に落ち着いてきた。ただ、開館にあたって一番驚いたのは新規登録者の数。7月だけで2000人、8月は1600人が登録した。開館時の新規登録者がこれほどの数に上る図書館は珍しいと聞いている。八千代市の村上地区にはこれまで図書館がなかったため、あまり図書館を利用していなかった地元の方が来館したのではないかと推測している」
 ――貸出や蔵書等の状況は。
 「八千代市には大和田、八千代台、勝田台、緑が丘の4つの図書館がある。この4館と一人当たりの貸出冊数を比べると、まだ中央図書館は少ない。ネット予約やリクエストなどの仕組みがまだ広く知れ渡っていないのが原因かもしれない。他館にある書籍も貸出対象であることも含めて、その辺をさらに周知徹底していけば、貸出冊数は増えるはずだ」
 「蔵書についてもこれからの課題。開架は10万冊、閉架書庫は4万冊で合計14万冊ある。そのうち10万冊は他の4館から集めたものなので、利用者からは新刊が足りないという声もある。限られた予算のなかで、今は徐々に新刊を買い足している。読み物や実用書ばかりではなく、参考書、郷土資料などを収集していかなくてはいけない。その一方で、同館の隣接地区には、花見川図書館(千葉市)や東習志野図書館(習志野市)、志津図書館(佐倉市)などたくさんの図書館がある。いまやカーリルなどの図書館蔵書検索サービスで、自宅で図書を検索できる時代。借りたい本がないからという理由で他館に行かれないようにしていきたい」
 ――中央図書館の概要や特長は。
 「八千代市立中央図書館は、八千代市民ギャラリーを併設した複合施設で、施設管理と市民ギャラリーはオーエンスが、図書館は図書館流通センターが運営している。ここは今も千葉県が有する土地で、以前には県立図書館を建設する予定だったようだ。様々な経緯の末、八千代市が中央図書館を設立することになった。図書館部分の設計は、新潟市立中央図書館や日進市立図書館(愛知県)など多数の図書館建築の実績を持つ岡田新一設計事務所が手掛けている」
 「この図書館の特長の一つは、学びの場として図書館を活用してもらうために、学習席が多数設置されていること。テーブル付きは350席、テーブルなしを含めると550席もある。八千代市の大和田図書館には30席、緑が丘図書館には28席の学習席があるが、勝田台、八千代台の図書館にはない。市は中高生の学習の場に図書館を利用してほしいと考えている」
 「同館は、子どもたちを図書館の規則で縛らず、自由に施設を活用してもらうという方針で運営している。子どもの頃から図書館に親しんでもらうことで、大人になっても図書館を使い続けてもらいたい、という考えからだ。一言で言えば、子どもを大事にする図書館とも言える。それを象徴するのが、児童書エリアにある『こどもテラス』という屋外の施設。その施設を屋内から見ることができるスペースが『ほっとコーナー』で、母親は子どもを屋外で遊ばせながら、屋内の同コーナーで育児や趣味の雑誌などを読むことができる。このこどもテラスにはシャワーが付いており、自由に使うことできる。夏場は水浴びなどをしている子どもがいた。水は図書館にとって大敵であるが、こどもテラスの入口には床が濡れることを想定して絨毯を敷いているし、常識の範囲内で利用してもらっているので、問題は起きていていない。また、館内には会話禁止など『〇〇してはいけない』という張り紙を極力貼らないようにしている。どうしても必要な場所にはピクトグラムを掲示して注意を促している。その配慮の根底には、大人も子どもも、利用者には自由に図書館を使ってもらいたいという考えがあるからだ」
 ――一時保育のサービスが好評と聞く。子どもを大事にするというコンセプトから導入したのか。
 「市が図書館を設計した最初の段階では、図書館での一時保育は計画に入っていなかった。だが、児童図書エリアにはベビーベッドが設置され、こどもテラスやほっとコーナーを設けることは決まっていた。それをみて、一時保育サービスが非常にマッチすると考えて、市に提案した。市の反応も大変良かった。専用の一時保育スペースは設計になかったが、幸い、入口からすぐ左手にある研修・会議室を利用できることになった。隣は児童図書エリアなので、場所もいい。一時保育サービスを提供する株式会社明日香は、会議室程度のスペースがあればどこでも一時保育はできると言ってくれたので、開館から5日後の7月6日から、保育士3名を配置して週3回(火・水・土曜日、午前10時~午後2時)のサービスを開始した。開始当初は1ケタ台の人数だったが、ブログなどお母さんたちの口コミで広がり、これまで1日に最高29人が利用した。天気などにも左右されるが、今も1日10~20人は使用してくれる。母親からは『本当に無料?』と聞かれることも多く、大きな宣伝もしていない一時保育サービスが予想以上に話題になった。次の段階として、託児室に育児コンシェルジュを配置して、育児相談会も定期的に開催していく。第1弾は9月26日に開催する予定だ(取材当時)。将来的にはこの地域の子育て拠点として活用してもらえる図書館になれればと考えている」
 ――一部の文芸書の出版社は、書店での売上が落ちるのは公共図書館の貸出に原因があると考えている。そのため、貸出開始を発売から半年後にしてほしいと要望している。どう考えるか。
 「八千代市においてもベストセラー本など多くの予約が入っている。最後の人に読んでもらえるには1年以上かかる本もある。利用者がOPACで予約をかける時点では予約人数を確認できるので、買ってまでは読まないがちょっと予約しておこうということが多いのだと思う。ほとんどの図書館は予算削減の中、アイテム数を増やすために複本購入を抑えているのではないだろうか。娯楽においてもネット環境はますます便利になり、本を読むという行為自体の総量は激減しているはずだ。図書館としては、本好きになる子どもたちをたくさん作ることが必要である。読み物だけでなく、課題を見つけて自分で解決できた喜びを知る調べ学習は、一生涯を支える方法にもなる。遠回りだが、本の文化を支えていく道になると信じている」







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