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評者◆添田馨
二〇一五年八月三〇日、国会議事堂前での〝決壊〟――まぎれもなく歴史が動いたマーヴェラスな瞬間
No.3224 ・ 2015年09月26日




■2015年8月30日の国会議事堂正門前の路上。安保関連法案の成立阻止と安倍政権の退陣を求めて集まった怒れる人々の前で、決壊が起こった。警察が歩道上に設けた規制線が、押し寄せる人の波に耐えきれず、文字通り決壊したのだ。その結果、抗議の群衆が車道へと一気になだれ込む事態となった。この情景は、昨年以降、この国の深層で起きている大きな変化を、そのまま可視的に象徴した出来事だと、私には思われた。
 じつはこうした決壊は、すでに見えないところで徐々に始まっていたに違いない。個々人の内面を直接覗くことはできないが、そこで確実に起こっていたことだと思う。自分のなかでも、間違いなく決壊は生じていた。
 決壊とは何か。それは誰にでも起こりうる。それは思考転換や行動様式のことではない。意図された動員の呼びかけによってもたらされるものでも一切ない。決壊は、抗いようもなく強い力で、人を単独での行動に駆り立てる。地下でマグマが溜りつづけるように、最初はそれと気付かれないほどの変化だったものが、次第に怒りと絶望のエネルギーを蓄積していき、ある時それが抑えきれなくなって外部へと一気に噴出する。それが決壊だ。
 安保関連法案の成立に反対する広範な抗議行動の原点にあるのは、個々人の分厚い日常性の壁をもこうして突き破っていく、自己を超えた行動的意志のベクトルに他ならない。それをもたらしたのが、戦後70年をかけてわが国が培ってきた立憲民主主義を蹂躙する、現政権の横暴にあることは言うまでもない。
 決壊はあらたな決壊を人々へつぎつぎにもたらした。福島の原発事故で危機感を抱いた多くの人たちに、あるいは大学生たちの少人数のグループに、あるいは小さな子供をもつ母親たちに、学者たちに、大学関係者たちに、高校生たちに、そして世代を超えた多くの無名の生活者たちにも。
 8月30日の国会前での〝決壊〟は、こうして、まぎれもなく歴史が動いたマーヴェラスな瞬間だった。







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