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評者◆ベイベー関根
フイチンさん、ウォーアイニー!
フイチンさん 復刻愛蔵版 上・下
上田としこ
No.3223 ・ 2015年09月19日




■いっちゃ悪いけど、村上もとか『フイチン再見!』が、どうもいまひとつなんだよね。これはあの傑作『フイチンさん』を描いた上田としこの伝記マンガで、ていねいに描いているのはわかるんだけど、どうもテンポがとろいし、このペースで行くなら、単行本1巻あたりのページ数はもっと多くないとダメなんじゃないかという気がすんだよな。
 父親が幽霊になって現れるというフックも、正直さほど生きてないし、絵もよくも悪くも今ふうで、テンポ感や絵の自由さこそ上田としこに学んでほしいものだと思ったが……。
 と、ケチはつけてみたものの、何つーてもこれきっかけで『フイチンさん』が復刊されたんだから、とりあえずもう全部帳消しってことで! もともとは一九五七~六二年に『少女クラブ』で連載された作品で、今回の復刻は全エピソード収録のみならず、カラーページなども再現されてるんで、前の版をおもちの方もぜひ!
 舞台は満州国(!)。ハルピン一の大金持ち、リュウタイ家の門番の娘、フイチンさんは、いつも明るいおてんば娘。でも、曲がったことは大キライ! ある日、ひょんなことから屋敷のご主人ジャングイ様に見込まれて、ひとり息子のリイチュウちゃんの遊び相手にさせられることになったフイチンさんは、わがままできかん坊のリイチュウにはてんてこまい。でも、自分をいつも腫れもの扱いする周りの人たちとはひと味違う、フイチンさんの率直そのものの態度は坊っちゃんにすっかり気に入られ、ふたりは大の仲良しに。そこにリュウタイ家のばあやの孫娘であるチンナイも加わって、毎日がドタバタ騒ぎ……。
 上巻では、ステキなお金持ちのリュウホウくんとの出会いがあったり(でもロマンスはなし)、彼の病気を治す薬を探す冒険に出たり、下巻では、フイチンさんがなんとお上品な学校で寄宿舎生活を送るハメになったり、誘拐された坊っちゃんを救い出すために奔走したりと、最初から最後まで息をつかせぬ大活躍!
 ふつう少女マンガといえば、ロマンティックだったり、お涙頂戴だったり、努力しまくったりするところ、『フイチンさん』はまるっきりそんなのとは無縁なんだよな。しかも舞台が日本でも(想像や伝聞の中の)欧米でもなく、(作者自身が長く暮らした)ハルピンだってんだから、この飛び抜けっぷりはただごとじゃない。ときおり出てくる日本人やロシア人キャラも、物語を必要以上に引っぱらず、ほぼ風景扱い。これは、そうとう「その気」で描いてるなー。
 さらに、全コマいい! といいたくなるくらいの、この生き生きとした線! 日本人が中国の人たちを描いたマンガなのに、絵のノリはむしろすごく欧米っぽさを感じるんだよね。
 紙幅の都合上、満州問題については、残念ながら割愛。ただ、『フイチン再見!』に描かれてる、上田としこのご両親、熊生と總子を描いた、佐多稲子『重き流れに』って小説があることだけ押さえておこう!







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