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評者◆秋竜山
帰ってこいよ喫茶店文化、の巻
No.3223 ・ 2015年09月19日




■「とにかく、あの頃はヨカッタ!! メチャクチャによかった」と、すぐいいたがるヒトは昔のヒトということになる。今はよくない!! ということをいっているようなものだから。本当に昔はよかったのか。昔よりも今が一番いいということ、であるのに。髙井尚之『カフェと日本人』(講談社現代新書、本体七六〇円)で、〈第二章 日本独自の進化を遂げたカフェ・喫茶店〉の〈「談話室滝沢」があった時代〉の項目があった。「談話室滝沢」となると、とたんに私は昔のヒトになってしまうのである。「とにかく、あの頃はヨカッタ!! ヨカッタ!! メチャクチャによかった」時代であった。「滝沢」へは、毎日行った。
 〈ビジネス需要に応えた店として、まだ利用者の記憶に残るのが、高度成長期から平成時代まで長年愛用された「談話室滝沢」(一九六六~二〇〇五年)だ。(略)コーヒーや紅茶は一〇〇〇円と割高だったが、何時間いてもよかった。メディア関係の御用達といわれ、「店内では、あちこちで同業者と思われる人が似たような打合せをしていた」〉(本書より)
 私も、その似たような打合せをしていた一人にはいるだろう。手塚治虫さんから「秋さん、僕も滝沢へ何度か行ったよ」というようなことをいわれた。新宿駅、中央通りにあり、当時の中央通りはメチャクチャによかった。ランブルという音楽喫茶があり、始めの頃は床が木でできていて歩くとギシギシ音がした。本当の音楽好きばかりの客と思わせられたのは、店内にはクラシック音楽が流れていて、その音楽をべートーベンのような顔をさせてこのようにして聴くものだと教えられるような、コーヒー一ぱいでみな同じ顔つきをさせて、実にマンガ的であった。友人と一緒に店に入った時など、別に音楽を聴くためではなく、マンガの話でもしようと、当時は時間さえあればマンガの話ばかりしていた。特別、私の声が大きかったようだ。とたんに、まわりから「シーッ!!」と、怒ったような顔で何回もやられた。東京のいたるところに喫茶店文化が軒を並べていた。〈名曲喫茶、シャンソン喫茶、ジャズ喫茶、ゴーゴー喫茶、歌声喫茶、ロカビリー喫茶〉など切りがないくらいあった。そこで一ぱいのコーヒーで時間をつぶした。あの頃は時間だけがありあまっていた。
 〈変わらぬオトコの願望を満たす。高度成長期には、若い女性の接客で知られた「美人喫茶」があった。その名前は、当時を知る世代には共通言語だ。文字どおり、美人のウエイトレスを揃えた喫茶店である。銀座では「プリンス」が最も有名で、他に「田園」「コンパル」などが知られていた。(略)三笠会館の近くにあったプリンスでは、四〇年ほど前にオレンジジュースが七〇〇~八〇〇円・レモンスカッシュも同じだった。〉(本書より)
 そういえば、「ノーパン喫茶」「同伴喫茶」「アベック喫茶」「連れ込み喫茶」なんてのもあった。「未亡人喫茶」というのもあった。わけのわからない喫茶店と名のる店もあった。今の東京から姿を消してしまったあの喫茶店は、いったいどこへいってしまったのだろうか。不思議なことである。








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