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評者◆第2回 あかね書房・岡本光晴社長
図書館と出版社は連携して出版物の多様性確保を――あかね書房の歴史と児童書販売の現状についてレポート
No.3223 ・ 2015年09月19日




■江戸川区立西葛西図書館(東京)はこのほど、あかね書房の岡本光晴社長を招き、「出版社と図書館をつなぐ」シリーズの第2回講演会を同館3階会議室で開催した。同シリーズは昨年に海老名市立中央図書館(神奈川)が図書館と出版社との相互理解を促進するために開始したイベント。同館リニューアルによる休館に伴い、西葛西図書館が引き継いだ。岡本社長は、あかね書房や児童書業界の歴史を紹介するとともに、シュリンクする出版市場における書店店頭の変化などにも言及。「出版物の魅力は多様さにある。(それを担保するために)出版社と図書館は連携すべき」と訴えた。
 講演要旨は次の通り。

■睦人氏の創業から66年 児童出協の発足に貢献
 あかね書房は66年間、子どもの本の出版活動を続けている出版社。1949年に祖父(岡本睦人氏)が創業して、私で3代目となる。祖父は15歳(大正15年)のときに集団就職で上京し、東京・神保町にある東京堂(書店として出発し、当時は卸業と出版もはじめていた)で、少年社員として働き始めた。当時は、東京堂のほか、北隆館、東海堂、大東館――いわゆる4大取次があった時代だ。
 太平洋戦争前後には4大取次が日本出版配給株式会社(通称・日配)という国策会社に統合された。出版社も3664社が203社に縮小された。そうしたなか、祖父は東京堂で小売部門、外商部門を経た後、出版部門の営業を担当していた。戦後は、日配は解体されて東京出版販売(現トーハン)や日本出版販売(日販)、大阪屋という取次が新たに生まれた。祖父は、理系の専門出版社・東海書房という会社に入った。馴染みのないジャンルの本だったので相当苦労したようだ。ただ、元々子どもの本を手がけたいという思いがあり、東海書房で児童書も出版していたようだ。
 昭和24年、37歳のときに一念発起して、あかね書房を創立した。当初は個人会社だったが、編集や営業などを手伝う人が徐々に増えていき、少しずつ会社は大きくなっていった。その頃、鎌倉在住の作家さんが中心になって興した会社「鎌倉文庫」の『文芸往来』編集長だった巌谷大四氏と面識を得た。その後、巌谷小波さんの本『きのこのきのすけ』を出版することになった。この縁をきっかけに、巌谷さんの御子息・大四氏を初代編集長に招き、名作に挿絵を入れて、現代仮名遣いで子どもたちに読みやすい本を数多く出版していった。
 創業から経営的に難しい時期もあったようだが、昭和31年には社屋が完成した。とくに、昭和28年に制定された学校図書館法の恩恵があったようだ。戦後の児童書は厳しい時代が続いたのだが、学校図書館法の制定で、学校は図書館を設置しなくてはいけなくなった。つまり、各学校に図書購入予算がついたのだ。他の児童書版元もそうだったが、「学校図書館法の制定」の影響は非常に大きかったようだ。
 これに伴い、出版社も書店も学校図書館に児童書を販売していくのだが、出版社一社ずつの営業活動には限界があるとして、岩崎書店や小峰書店、小山書店(当時)など18の出版社が、日本児童図書出版協会を発足させた。同協会は2年前に60周年を迎え、いまも学校図書館販売で協力しているほか、新刊のガイドブックなどを作成し、児童図書文化の向上に努めている。加盟社は現在、42社となった。
 大四氏の後、編集長に就任したのが寺村輝夫氏。作家との二束のわらじだったが、このときに弊社の代名詞ともいえる幼年童話の刊行を始めた。当時も幼年童話はあったが、大きな活字で教科書と書体を合わせて、見開きに絵を入れるという、画期的な体裁のものはなかった。今も幼年童話のシリーズは引き続き出版している。代表作は『ふらいぱんじいさん』で1969年に発行して、累計発行部数は100万部を超えている。今も毎年、版を重ねている。
 3代目の編集長となった山下明生氏のときには、「科学のアルバム」というシリーズを創刊した。絶版もあるが、現在まで104巻まで発刊しており、公共図書館や学校図書館では必ず蔵書していただいている作品。しかし、創刊当時はあまり売れなかったようだ。山下さんは、本の製作・管理する部署の部長から毎日のように「『倉庫に行って在庫を見てこい』と怒られた」と話していた。しかし、巻数も増えたことで、図書館にセット販売し、一般家庭に訪問販売していくなか、口コミで本が広まっていった。

■データ重視の店頭へ 消える名作に危機感
 児童書の分野では、書店を人海戦術で回って補充注文を取るという営業活動を長年続けてきた。しかし、昨今は注文を取ることが難しくなっている。書店店頭はスペースにも限りがあるので、販売データ上で、売れている本を中心に置くように変わってきた。
 だが、児童書は長年読みつがれてきているものがたくさんある。しかし、データだけで見ると、どうしてもそういう本は消えていってしまう。それは仕方がない面もあるが、他社の作品も含めて名作は読みつがれていってほしいと思っている。
 書店さんの児童書の品揃えはかなり変わってきている。最近は絵本中心が多い。ハードカバーの上製本などの読み物を店頭に置くのは、ナショナルチェーンの大型店舗くらいになった。派手に動くものではないので、減ってしまっているのが現状だ。
 一方、児童文庫は増えており、出版社が書店の場所の取り合いをしている。かなり昔にあかね書房も文庫を創刊したが、新刊を出し続けて、ある程度の点数を揃えなくてはならない――など、店頭での販売競争が厳しかった。そのため、10年経たずに、文庫を休刊することになった。

■コミュニティの場として多様化する図書館の役割
 最近、地方の図書館を見る機会があったが、昔の図書館のイメージとは大分変わったと実感している。例えば、山梨県立図書館は甲府の駅前にあり、建物も大きく、カフェもある。県内の人が月に1、2回、車で2時間かけて山梨県立図書館に来て、一日中、図書館に滞在していると聞いた。
 地方の図書館はとくに、本の利用だけではなく、コミュニティの場としても活用されている。それこそ、正月に帰省して図書館で出会ったのをきっかけに同窓会を開いたという話も聞いている。図書館にはそういった役割もある。
 少し前までは一部の図書館で、住民サービスという名のもと、貸出率を上げるためにベストセラーをたくさん購入して、貸し出していたようだ。しかし、今は大分減って、様々なジャンルの本を揃えて、子どもから大人まで利用してもらおうという姿勢がうかがえる。
 また、ボランティアなども含めて地域の活動を支援しているのも図書館。数多くのセミナーを開催している。出版社としてもそうした様々な活動に関わっていかなくてはいけないと考えている。
 ただ、出版社からすると、ひとつ課題がある。これまでは、図書館は図書館、書店は書店で、別々の活動でよかった。だが、これからは出版社と図書館と書店が連携して、本を買いたいと思わせるようなことをしていかなくてはいけない。これは、弊社が生き残るためだけではなく、出版業界全体にとっての問題。出版物の魅力は多様な本があって、それを読者が選択できるということ。それが、どんどん売れるモノだけに集中していくと、出版業界は尻すぼみになる。すでに書店店頭は売れている本が中心になってきている。その意味で、様々な本を蔵書する図書館は、子どもたちに様々な本を知ってもらえる機会を得られる。そういうところで、出版社と図書館は連携していかなくてはいけない。
 それと、図書館は大事なパートナーだが、利用者の方にはぜひ、気にいった本は購入してほしいと訴えたい。経済情勢が厳しいなか、すべての欲しい本を買うことができないのは重々承知している。ただ、借りるのが当たり前ではなく、本は買うものという習慣がついてくれればと思う。そのために何ができるのか、皆で考えていかなければいけない。







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