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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家・尾辻かな子の巻33
No.3222 ・ 2015年09月12日




■細野豪志との政策的出会い②

 いっぽう、細野豪志の側からみて、尾辻かな子との出会いに至る経緯はどうだったのか。直接当人に会って訊いてみた。
 細野は、以前からLGBT問題に関心をもっていたこともあり、尾辻かな子のことは、彼女が2007年夏の参院選全国比例に立候補したときから注目していた。しかし、そのときには同じ民主党にありながら、選挙にからむ党の主要な役職には就いておらず、尾辻と話す機会はなかった。尾辻とはじめて出会うのは、2013年5月に彼女が繰り上げ当選し、当時幹事長だった細野に挨拶にやってきたときであった。それでも軽く挨拶をかわす程度だった。
 ちょうどその頃(2013年秋ごろ)、細野は自らのグループ「自誓会」を立ち上げるために、親しい仲間たちと政策議論に着手。細野としては民主党再生の提言の中にLGBT政策を位置付けようとしたが、グループ内に異論もあって煮詰めることができず、翌2014年4月の「自誓会」創立記念パーティで発表された「基本政策」には盛り込めなかった。しかし、細野には、この課題を広く世の中に問いたいとの強い思いがあった。
 そこで、細野個人の主張ならばいいのではないかと考え、寄稿の機会を得た「中央公論」10月号の「わが民主党改革宣言」と題する論文で発信することにし、尾辻かな子との本格的出会いと意見交換につながったのだった。
 しかし、細野の「中央公論」の論文は、これまでの民主党の政策としては一歩踏み出した画期的な内容を含んでいたにもかかわらず、いっこうに下げ止まらない民主党の不人気のなかで、残念ながらマスコミからは注目されることはなかった。若干拍子抜けした細野は、直接反応を確かめようと、論文で取り上げたいくつかの目玉政策をツイッターなどを通じて、ひろく評価を求めた。すると、もっとも反応があったのはLGBT政策だった。それも、おおむね好意的だった。気になるのは異議や忌避感だったが、それはなかった。ただし、「中央公論」の読者は細野より10歳以上年上のシニアということもあってか、彼らからは「意義深いテーマだが、時期尚早ではないか」、また「細野がいうことはない、もっとふさわしい人に言わせればいいではないか」との意見が寄せられた。
 折しも翌2015年1月、民主党では前年末の総選挙で落選した海江田代表の辞任を受けて代表戦が行なわれることになり、岡田克也元代表、長妻昭元厚相との三つ巴戦に細野も参戦。細野としては、先のツイッターへの反応から、LGBTをめぐる政策テーマは「きている」と感じ、グループの仲間には事前に相談せずに、岡田、長妻、細野の3候補そろい踏みの記者会見で、いきなり争点のテーマの一つにぶち上げたのである。
 尾辻は党大阪5区総支部幹事長として党員・サポーターへ細野支持を訴え、細野陣営の地盤の弱い地元大阪・関西の票の掘り起こしに奔走した。
 細野の掲げたLGBT政策に対して、岡田、長妻両陣営からは異論も否定的な反論もなかった。細野は岡田と大接戦を演じた末に敗れはしたが、代表戦を通じていっそう確信を深めた。民主党の支持者の中でLGBT政策をネガティブテーマとみる人はいない。むしろウェルカムテーマである。だったら今こそチャンスだ。岡田新体制の下で政調会長に就任した細野は、さっそく自ら音頭をとって動きをスタートさせた。
 3月17日には、自民党の馳浩・元文部科学副大臣、公明党の谷合正明・政調副会長らと共に呼びかけ人となり、超党派の国会議員による「LGBTに関する課題を考える議連」(通称・LGBT議連)を発足させた。まずは当事者に対する聞き取りや海外の法制度の研究を始める。細野は自らのホームページにこう記した。「ここまで来るのに時間がかかってしまいましたが、与野党を超えて議論できるプラットホームができたのは大きな一歩です」。
 先日も金融業界の当事者たちとの懇親をかねた勉強会があり、大いに盛り上がったが、細野によると、LGBT議連の自民党議員はやはり腰が重い。民主党内にワーキングチームを立ち上げたので、民主党がイニシアティブをとって、LGBTに対する差別解消とパートナーシップ容認の法案化をめざしたいという。
 そんな細野にとって、尾辻に期待することを聞くと、こんな答えが返ってきた。
 「日本をLGBTの当事者がふつうに生きられる社会にしたい。そのためには(前回のように)参議院全国比例で特定な人々の支持を得た特定な政治家をめざすのではなく、小選挙区から出馬して、自らの生き方を通じて多様な人生があることを、当事者だけでなくアライな人たちにもアピールして、多様な有権者から幅広く支持を集めて議員になってほしい。それが、LGBTが多様性のある社会でふつうの存在の一つであるということを証明してみせることにもなる。そして当選をしたら、LGBT限定でなく色々な政策に取り組んで政治家としての幅を広げてほしい。そのことで、次から次へとチャレンジャーが出てくるきっかけとなってほしい」
 細野による尾辻へのエールは先に「2007年の選挙総括」で紹介した伏見憲明や選挙参謀たちの意見とも同期するものだ。
 尾辻は、細野が仕掛けた民主党のワーキングチームのメンバーとも意見交換を重ねる一方で、この10月にはイギリスのLGBTのフォーラムに招待されるなど国際的な活動にも余念がない。しかしながら、細野が期待する小選挙区から出馬して議員になる道は今のところ不透明である。
 それでも政治の流動化が囁かれるなかで仮に歴史的な再編があったところで、LGBTをめぐるテーマは消えるどころか、ますます重要度を増すだろう。それは渋谷区の同性パートナーに証明書を発行する条例、アメリカ最高裁の「全州での同性婚の合憲判決」という日米の象徴的事件に明らかであろう。
 日本の政治が歴史的な転換を果たすためには、政局ではなく政策によらねばならない。そこではLGBT政策が重要なリトマス試験紙になるのは間違いない。見方を変えれば、日本の政治の転換は、尾辻かな子という「新しい政治伏流」がいつどういう形で「本流」になるかにかかっているといえるかもしれないのである。
(本文敬称略)

(「尾辻かな子の巻」は今回をもって完結。次回からは、安保法制議論で注目をあつめつつある、元陸上自衛隊レンジャー出身で前加古川市議の井筒高雄〔45〕を取り上げる)







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