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評者◆小嵐九八郎
高齢者の「いま」が解る
老いてさまよう――認知症の人はいま
毎日新聞特別報道グループ編著
No.3222 ・ 2015年09月12日




■「日本の法律より、校則の方が大事なんだ」と説教する中学の先生が、五十五年前の当方の周りにはいたけれど、それよりももっとひどい安保法案が特別委員会で強行採決された日、神奈川県の外れから国会前に行き、一旦、銃火を交えれば無制限の殺傷へと“発展”するのは必至と改めて思い、川崎の自宅へ帰ろうとする路上で、自転車にぶつかりそうになった老人を見た。
 老人といっても俺と同じ七十歳ぐらい、足許が覚束なく映ったので「どこへ?」と聞いたら「そうじろにおかねが……おかねが……泣きて」と繰り返すばかり。あっ、道に迷ってるとも、なのに、そういや、これは啄木の歌の上の句で、短歌に嵌っている当方の明日の姿とも思い、冷やりとしたら、中年の女の人が走ってきて、「お父さん、あのね、お父さん」と老人を支えて逆方向へと消えた。
 それで、その深夜から慌てぎみに、新聞紙上では飛ばし読みしていた『老いてさまよう――認知症の人はいま』を発行されてから半年遅れで精読した。賞が良いとは決して言えないけれど、ブンガクとは異なって好みや傾向ではないクールな新聞協会賞と菊池寛賞をとっている本だ。初出の記事は、それを契機としてテレビでも取り上げられ、自らの名すら思い出せず行方不明者として迷いに迷う人が元の場所に帰ることができたきっかけになっている本だ。
 何しろ高齢者が“儲け”になり、それが、特別養護老人ホームや介護老人施設や精神病院でどうなっているのかが、解る。そこに働く人人の過酷な労働も。“在宅”と聞くと安心できそうだが、罠があることすら解る。六十代が読むのは必須だが、五十代で読んでおいた方が良い。将来のためには若い世代も。
 最も心を揺り動かされたのは、取材する記者の眼が、認知症の人人や我ら大老人と、時に同じ不安な心情になって事実を探ることだ。「三上正。なぜそう名付けられたのか、もはや知る人も記録もない。」(P.94)とあるように。







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