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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家・尾辻かな子の巻32
No.3221 ・ 2015年09月05日




■細野豪志との政策的出会い①

 尾辻かな子は、2012年末の第46回衆議院議員選挙に大阪5区から民主党公認で出馬、当選は果たせなかったが、セクシュアル・マイノリティであるからこそ社会的弱者の課題全般に取り組むことができる政治家として、「脱アイデンティティポリティクス」をアピールできたことは、尾辻本人にとっても、LGBT運動にとっても、さらには日本の政治にとっても大きな意義があった。それを受けて、引き続き大阪5区を拠点に捲土重来を期すことになったところへ、想定外の出来事が起きた。
 民主党公認候補として初めて国政に挑戦した2007年の参議院議員選挙の全国比例では、20名の当選者に遥かに及ばない29位で落選、当初は誰の目にも“復活”の目は考えられなかったが、5年余の間に死去や他党への乗り換え出馬が相次ぎ、2013年5月23日に繰り上げ当選になったのだった。
 わずか2か月の任期だったが、参議院議員として、同性パートナーの法的保障の法制化に向けてヒアリング作業など、議員立法の下地の準備に取り組む一方で、脱法ハウス問題や橋下徹大阪市長の従軍慰安婦発言に対して政府から「遺憾答弁」を引き出すなど、性的マイノリティには直接関わりのないテーマにも挑戦し、ここでも「脱アイデンティティポリティクス」を実践することができた(なお、それらの詳細については本連載の第2回と第3回で記したのでそれを参照されたい)。
 それにしても国会議員のバッジの重みと値打ちは本人の予想以上のものがあった。
 「日経ビジネス」新春号(2014年1月6日)ではいきなり「2014年日本の主役100人」の一人に選ばれた。また、ルース駐日米大使主催の「『性的少数者』の権利を高めるパーティ」に招待され、同じく地元大阪の米領事館トップでゲイであることを公表しているリネハン筆頭公使との公開シンポジウムの相方にも選ばれた。さらにバッジが外れてからも、10月にメキシコで開催されたLGBTの世界会議に招かれた。
 そんな華々しい脚光を浴びる一方で、再び大阪での捲土重来をめざして地道な活動を続けているところへ、民主党の若きリーダーの一人、細野豪志から、ある元議員を介して、話を聞きたいと声がかかった。細野は同年1月に民主党内に自らの政策グループ「自誓会」を立ち上げ、4月の創立記念パーティには2千人を超える参加者を集め、野党再編へのアドバルーン的布石かと話題を呼んでいたが、尾辻にとっては「遠い中央の存在」でしかなかった。明恵上人の言葉からとられたというグループ名も時代がかっていて、市民運動系育ちの尾辻からすると、なんとなく「作風」が違うという漠たる「距離感」があった。しかし、実際に会ってみて、それは尾辻の「思い込み」にすぎなかった。
 急遽上京して細野を訪ねると、こう言われて驚いた。「低迷から脱することができないでいる民主党の内なる再建のため政策提言をまとめたい、その目玉としてぜひともLGBT問題を入れたい、尾辻さんの活動にはかねてから注目していたので意見を聞かせてほしい」。細野は、学生時代から問題意識をもち当事者たちとの交流もあるといい、“耳学問”ではないことに尾辻は親近感を覚えた。
 もう一つ、尾辻に驚きと共に親近感を抱かせたのは、細野から「尾辻さんとは同世代として時代感覚を共有している」と言われたことだった。6回という当選回数やマスコミの注目度からてっきり「政治の大先輩」とばかり思っていたが、そのとき細野は42歳、39歳の尾辻とは3歳しか違わない。
 打ち解けるうちに、たしかに同世代ならではの心地良さを覚えた。「左派の市民運動系」との繋がりが深い尾辻だが、彼らの上の年代とLGBT問題について話すたびに、リベラルを標榜するわりには保守的で違和感を覚えてきたからだ。やはりこのテーマは時代の変わり目を肌で感じることができる若い世代同士の方が通じあえると実感させられた。
 それから2か月ほど後に、細野は「中央公論」10月号に「わが民主党改革宣言」と題する論文を寄せた。そこには細野との意見交換で尾辻が共感できた二つのテーマがしっかりと盛り込まれていた。一つは「新世代の台頭」である。細野は1998年の結党を受けて国会議員になった人々を、自分を含めて「民主党第三世代」と位置づけ、そこが再生の原動力になるべきだと主張。もう一つは「多様性という価値」という旗である。その旗の下、外交、子育て、家族・夫婦関係などと共に、LGBTについて、次のように力強く言及がされていた。
 「わが国で残された問題の一つがLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人々に対する施策である。すでに性同一性障害の人々に対する性別変更を認める特例法が制定されているが、取組みはまだ十分ではない。世界中から多くの人々が集まる二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、大きく前に踏み出すべき時期が来ている。多様な生き方に対応する制度があってこそ、わが国に人材が集まり、新たな発想を持つ人材が育っていく。具体的には、LGBTに対する差別解消法の制定、同性パートナーの法的保障の議論も始めるべき時期に来ている」
 ここには尾辻が当日細野と意見交換した内容が過不足なく盛り込まれていた。
(本文敬称略)
(つづく)







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