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評者◆秋竜山
「昔はよかった」を、やめにして、の巻
No.3221 ・ 2015年09月05日




■ナットクできる病気がある。「昔はよかった病」という。パオロ・マッツァリーノ『「昔はよかった」病』(新潮新書、本体七四〇円)と、いう本。成人病というか中高年病というべきだろう。まず、この病気から逃れることはできまい。原始時代にすでにこの病気はあったらしい。病状としては「昔はよかった」で、始まる。続けて、共通していることは「今どきの若え奴らは」、そして、「俺たち若えころは」と、続く。これは昔から有名である。
 〈古き良さと対になる常套句が、「むかしはよかった」。二五〇〇年前の孔子も口癖だったくらいだから、「むかしはよかった病」は、現実に失望した中高年ホモサピエンスが必ずかかる病なのでしょう。(略)人間の記憶や思い出は、総じてあてになりません。一〇年や二〇年前のことだって、けっこうあやふやです。ましてや、五〇年以上前ともなれば、悪い話は記憶から都合よく抹消され、良かったことだけが盛られて記憶に残ります。(略)戦争など大きな歴史は研究者も多いので細かく検証されますが、庶民史については年長者のいいかげんな証言が、検証されることなく広まってしまいがちです。史料から客観的に判断すると、むかしの社会もむかしの人間も、ちっともよくなんかありません。いまのほうがずっといい。あるいは、むかしもいまもたいして変わらない。それが歴史の真実です。〉(本書より)
 昔はよかったから始まる歴史の話は、昔はよくなかったことと承知していればまちがいないということだ。これからの、というよりも、もうすでに日本は老人天国であるから「昔はよかった病」患者がジュウマンしている。本書に〈元気じゃなくてもいいじゃない〉と、いう項目がある。
 〈そもそも論になりますけど、テンションが高い状態って、そんないいことなんですか? 人間は、いつも元気じゃないといけないものなのでしょうか? 四〇歳すぎますと、つねにカラダのどこかになにかしら不調があります。べつに元気じゃなくても、生きていけるもんなんだなァと最近私も悟りました。テレビCMでは年寄りに、元気になる健康食品を盛んに売りつけようとしてますけど、歳とりや元気がだんだんなくなるものが普通なんだってば。多少元気がなくたって、重度の病気がなければ御の字でしょ。なのに、年寄りのくせにいつまでも元気でいようなんてずうずうしい了見でいるから、健康食品産業のカモにされるんです。〉(本書より)
 一〇〇歳時代がやってくる。心配なのは、毎日、「昔はよかった」と、いいながら生きていかなければならないということである。そういう話を若い者相手にしたくても若者なんかどこにもいない。年寄りばっかりである。「昔はよかった」という話は若い者を相手にするのがたのしいのであって、同じ年のジイさん、バアさんを相手にしたってちっとも面白くない。「オーイ!! 若者やーい!! ワシの話を聞いとくれ」。「昔はよかった」を、やめにして。「昔は悪かった」病にしたらどうだろうか。「昔は悪かったなァ、今も悪いけど」と、なるとすくいようがない。







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