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評者◆中土居一輝(谷島屋 浜松本店)
徹底的な悪人ぶりが描かれる
不愉快犯
木内一裕
No.3221 ・ 2015年09月05日




■本格ミステリ、ハードボイルド、ソフトボイルド、法定推理小説、警察小説、スパイ小説、青春ミステリ、トラベルミステリ、日常の謎、イヤミス、バカミスなどなど、ミステリ小説をカテゴライズすれば、それこそひと晩あっても語り尽くせないくらいに細分化されています。
 また、壮大な長編小説もあれば、気軽に読むことができる短編や、サクサクと読み進められるショートショートなどがあります。ショートショートと言えば、星新一、都筑道夫、筒井康隆といった名手が有名です。ちなみにいま店頭を賑わせているのは「ショートショートの神様」星新一の孫弟子と呼ばれる田丸雅智さんが、けん引役となってブームになってきています。
 そんないろいろなミステリがある中で、その醍醐味といえばなんといっても完全犯罪です。完全犯罪を辞書でひくと、「犯罪によるものという証拠をまったく残さない犯罪」とあります。“すべてのミステリは完全犯罪に通ず”と言ったら過言ですが、それほど多くの人の興味・関心をそそるものであることは間違いないです。しかし実際に完全犯罪を行うということは非常に難しいです。動機、通話記録、監視カメラといったところから、足あと、髪の毛、指紋や、ケータイのGPS機能などいろんな側面から犯人をあぶり出すことができる世の中ですから、実際にどうやって殺してやろうかと考えてみると、その方法、後処理など対処しないといけないことがありすぎて、殺すことすらめんどうくさくなるのがほとんどじゃないかと思えてきます。
 そういった次第で、完全犯罪というのはけっこう割に合わないことであることがわかってきます。
 そもそも完全犯罪が成功するということは、当然犯人である自分一人、もしくは共犯者とその被害者だけしかそれが行われたことを知らないということです。それは、大きなことを成し遂げたという達成感はありますが、人間だれしもが持っている自己顕示欲が満たされることは少ないと思います。自信過剰な人間であるほど、“だれにも知られない犯罪を犯したすごい自分”を認めて欲しいという、ある種矛盾した気持ちを持つかもしれません。
 で、今回紹介する木内一裕さんの『不愉快犯』は、“完全犯罪を「完全」に成し遂げる、史上最高の悪役”の物語。
 簡単なあらすじを紹介すると、主人公の人気ミステリ作家・成宮彰一郎の妻、瑠璃子が行方不明になり、三鷹署の刑事課に配属されたばかりの新米刑事・金子とその指導担当である佐藤とが捜査を開始する。次々と不審点が明らかになっていき、成宮を問い詰めていくが、その都度のらりくらりとかわしていき、その間にも、容疑者が次々と浮かんでは消えていく。ミステリ作家である成宮がなぜ、不愉快な態度や言動を繰り返すのか。完全犯罪を「完全」に成し遂げるとはどういったことなのか?
 毎回木内一裕さんの作品の、物語に引きこんでいくパワーと、ぶっとんだ発想のストーリーに驚愕させられっぱなしですが、今回の『不愉快犯』の成宮は、より知性的で狡猾で、徹底的な悪人ぶりが描かれていて、逆に清々しさすら感じます。
 すさまじい悪人が描かれている小説は非常に多いです。たとえば、中村文則さんの『教団X』や新野剛志さんの『キングダム』、貴志祐介さんの『悪の教典』など数え上げればきりがないです。どの悪人も徹底的な悪ではあるけれども、それであってもどこか魅力的な部分があります。あの圧倒的な強さと悪役っぷりを発揮していた宇宙の帝王フリーザにも、どこか惹かれる部分があったものです。
 世の中には、“ワルい男”に惹かれる女性も多いと聞きます。ボクも、引かれることなく惹かれる男になりたいものだと、生きていこうと思う次第です。







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