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評者◆秋竜山
食べ方を進化させた人間、の巻
No.3221 ・ 2015年09月05日




■「ニッポン再発見」倶楽部『日本は外国人にどう見られていたか』(三笠書房、本体五九〇円)では、西洋人たちがはじめて日本へやってきて、日本人の食事風景が大きな驚きであったという。それは、そーだろう。ナイフ、フォーク、スプーンの国から、棒きれのような二本の箸を指先でヘンテコに使いこなして食事する日本人であるからだ。よく考えてみると、箸を使いこなすということは日本人だからといって、あなどってはいけないだろう。箸ほどむずかしいものはないからである。正しい箸の使い方というものがあるとしたら、日本人のどれだけの人たちが使えるか、おそらく間違った使い方をしているだろうし、毎日使っていてそれに気づかないだけのことである。と、思う。
 それは、エンピツの使い方にもいえるだろう。エンピツは二本持たずに一本持てばいいのだから箸よりも簡単であるということはありえない。文字が上手に書ければよいというものでもない。下手くそで見るにたえない字であったとしても、見ごとなエンピツの持ち方をする人もいる。持っていて、今にもポロッと手から落っこちそうな持ち方をしていても、ほれぼれするような文字を書く。そう考えた時、エンピツの持ち方と、書かれた文字とは、反比例するものであることがわかるだろう。もし、エンピツに関するコンテストのようなものがあったとしたら、持ち方では優勝しても書かれた文字では最下位ということもありえるだろうし、その逆もあってもしかるべきだろう。えてして、上手な文字を書く人は、下手な持ち方をして、上手な持ち方の人は下手な文字を書いてしまうのである。上手に持ち、上手に書くということは、そうざらにあるものではないだろう。下手な持ち方で下手な文字しか書けない人はある意味では正直な人のようでもある。
 そして箸である。テレビなどの食べ物番組で箸を手にしている女優とかタレントとかが、ガッカリするような箸の持ち方をして口に運んでいたりすると、それを見ただけでゲンメツである。そして、画面に、箸を持つ手だけをアップに映して、他の顔など映してほしくないものでもある。「アア、おしいなァ、あんな美しい箸の使い方がなっていない、すべて台無しだ」という女優などがいる。だから、食事場面でも箸を持たずに食べている場面だけにしてほしいものである。
 ナイフ、フォーク、スプーンにも同じようなことがいえるだろう。フォークでおさえナイフで切る肉を遠くのほうへ飛ばしてしまうことはマンガだけのことかと思ったら、実際にあった。その場合、使い方がまずいのであって、肉そのものがまずいのではないということだ。そういう肉ほど上等なおいしさであったりするわけである。
 〈日本人が箸を使って食事をするようすを見て、戦国時代に来日した西洋人は、優雅さを感じたようだ。織田信長や豊臣秀吉などとも付き合いのあったフロイスは、「彼らは二本の小さき棒をもって食事に手を触れるを不潔となす」と、日本人のテーブルマナーの美しさに驚きを示している。(「ヨーロッパ文化と日本文化」)〉(本書より)
 その点、動物は箸やフォークなどのやっかいにならなくてすむから安心だ。食べ方を進化させたのは人間だけか……。







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