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評者◆たけぞう
イギリス流のジョークと皮肉の効いた知的なおもちゃ
平和の玩具
サキ著、和爾桃子訳
No.3221 ・ 2015年09月05日




■チェスタトンの序文が的を射ています。さすが人気作家です、読みごたえのある序文で、本編とのバランスは抜群です。序文にはこんなことが書いてあります。
 サキの放つ皮肉の多くはまじめな真実を存分にたたえていて、戦争玩具を平和な玩具にすげかえる案はまんざら的外れではありません。あるアメリカ児童のひとりが、おもちゃの銃を放棄して世界の軍縮運動に協力すると申し出たとき、アメリカ人の多くは温かい目で受け止めました。子どもにとっては、目下の軍縮もおもちゃの銃と五十歩百歩であろうとチェスタトンは言います。
 じゃあアメリカ独特の倫理観が働いたら、おもちゃの銃にも規制をかけかねないと警鐘を鳴らします。木剣で遊んだ子どもは、一人残らず血刀ひっさげて世をなで斬りにするのかという論争が起きかねないと。
 科学啓蒙思想を奉じる連中くらい、あやふやな関連性や上っ面の類似性だけで速断しがちな輩は世にまたとない。
 戦争の本質とは、軍備の定義とは、などには思い至らず、見た目が軍ならなんでも軍国主義、自然死でなさそうなら常に殺人、制服なら一も二もなく軍人と決めつける。
 チェスタトンの序文は、日常を扱ったサキの作品から大きく外れているようにみえて、本質をじつによくとらえているのです。平和の玩具というタイトルの意味は、作品だけでは分かりません。戦争に向かない体力なのに前線で仲間といることを選び、愛国者として殉死したサキ。人望のあった人柄の向こうには、事実を冷静にとらえる目を持っていたのでしょう。
 友人づきあいで出てくる困った人が、友人同士のいがみ合いをなくすために仕組まれたスケープゴートだったとしたら。
 手紙をいつも勝手に開ける過干渉の親をどうやってこらしめるか。
 手くせの悪い親類という存在に振り回され、疑うことで自分の身にふりかかってくることとは。
 ひとつひとつの切り口が鮮やかで、ちょっと身につまされて、オチの皮肉が斜め上をいく楽しさがあります。こんなことでいさかいが起こるという平和さを実感します。
 戦争は大きなことですが、結局はささいなことの積み重ねと硬直的な決めつけが膨らんだものと考えれば、考えることのきっかけを作り、考えること自体に価値があるという小説の本質を見た気になるのです。だから平和の玩具なのだと。深く読めば読むほど味わいがある、そんな一冊です。


選評:実はショートショートって、空き時間に読むのは楽しいんだけれど、ときどき消化不良に感じることがやっぱりある。作品のモチーフがうまく活かされていなかったり、オチがわかりやすすぎたりすると特に感じるのだ。書き手にとっても、事情はきっと同じだろう。そんななかにあっても、サキはすごい。どこからでも語れる。現代でもジャンルレスの作家として、幅広く読まれるべきだ。
次選レビュアー:ぬこ〈『ポルトガル物語』(書肆侃侃房)〉、かもめ通信〈『優しい嘘』(書肆侃侃房)〉







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