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評者◆石本秀一(ジュンク堂書店ロフト名古屋店)
このシリーズに「乗り遅れるな!」
空棺の烏
阿部智里
No.3220 ・ 2015年08月29日




■4月の本屋大賞授賞式の翌日、書店仲間たち数人でいくつかの出版社にあいさつ回りをしていた際に、文藝春秋のロビーで打ち合わせ中の阿部智里さんとご挨拶する機会がありました。残念ながら彼女の作品を未読だった私はたいしたお話もできなかったのですが、もしあの時すでに読んでいたとしたら、20代前半のお嬢さんを相手に妙なテンションで熱心に語りかけるアラフィフおやじと化していたに違いないので、それはそれでよかったのかもしれない。で、何が言いたいのかというと、おもしろいのですよ! 『烏に単は似合わない』から始まるこの八咫烏シリーズが。いろいろとお世話にもなっている名古屋在住の書評家・大矢博子さんが「乗り遅れるな!」(『烏は主を選ばない』文庫解説)と強く薦めているのもよくわかる。ファンタジーが好きな人はもちろんのこと、ミステリが好きな人、人間ドラマが好きな人などいろんな人が楽しめる物語なのです。
 人間の代わりに八咫烏(サッカー日本代表のエンブレムにも描かれている三本足のカラス)が棲む世界。通常は人の形で過ごすが、卵で生まれる彼らは烏の姿になって空を飛ぶこともできる。そこを除けば気候・風土・文化は日本の中世を思わせる「山内」という世界が舞台となっている。絢爛豪華な宮廷を舞台にお后の座をめぐり競い争う姫たちとそこで起こる事件を綴り、どんでん返しの結末で驚かせた『烏に単は似合わない』。それと同じ時間軸でうつけの若宮・奈月彦とそれに仕える武家のぼんくら次男・雪哉が、敵対派に囲まれる中で何をやっていたかを描いた『烏は主を選ばない』。シリーズの中では前日譚とも言える前二作は宮中の場面がほとんどでしたが、続編『黄金の烏』では地方の村や地下の洞窟などと舞台が広がります。人間の骨が原料となっている「仙人蓋」という危険な薬を調べているうちに、八咫烏を食い殺す大猿と遭遇する奈月彦と雪哉。力を合わせて事件に対処していくうちに、この世界の根幹をなす秘密にも触れることになる二人の闘いを伝えています。
 そしてシリーズ最新作が『空棺の烏』。一度は離れたものの「真の金烏」の意味を知り、奈月彦に仕える覚悟を決めた雪哉が進んだエリート武官養成のための全寮制の男子校・勁草院が舞台です。厳しい訓練や理不尽な教官、貴族と庶民の格差やそこから生まれる確執、学園にまで持ち込まれる若宮派と兄・長束派の対立、少年たちの成長と友情などなどでお話を進めながら、即位を延期された若宮や真の金烏をめぐる問題などもからめてページをめくる手を止めさせない。田舎育ちの茂丸、武術の才能豊かな千早、西家の御曹司である明留。勁草院でともに過ごした日々を経て、シリーズを通じて活躍する雪哉にできた信頼できる仲間たち。彼らが揃って活躍すると思われる続編が、早くも待ち遠しくてたまらない。







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