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評者◆秋竜山
空気を読むな! 戦争反対!!、の巻
No.3219 ・ 2015年08月15日




■私は、あの終戦から戦後の記憶をたどるとしたら、「幼児から児童というあいまいな記憶」という前書きが必ず必要となる。その年齢も大人達と同じ人間には違いないのである。しかし、大人達とくらべ、その時代を生きたことは世の中をまったく知らないにひとしいものでもある。小学生の高学年になって、学校の映画観賞会で「戦艦大和」を観た。大和の運命は昭和20年4月、アメリカ軍艦載機によって壮絶な戦いの末に海の中へ沈んでしまうのであるが、もう駄目だ!! もう駄目だ!! と、映画を観ながら子供心に心の中で叫んでいた。そして、さらに子供心に、もう沈んでしまうしかない時、どうして日本へ逃げてでもいいから引きかえさないのかと思ったものだった。大澤真幸『〈問い〉の読書術』(朝日新書、本体八八〇円)に、「戦艦大和出撃の決定」の模様が書かれてある。後に封切られた「ゴジラ」映画と重なる。ゴジラは、海の中に逃げて帰っていったのである。大和は海の中へ沈んでいくのは負けで、日本へ逃げて帰ることもできず、悲鳴をあげて沈んでいったのであった。
 〈昭和20(1945)年4月、すでに沖縄戦が始まっている最中、戦艦大和は沖縄に向けて出撃した。大本営参謀に基づく行動であった。〉
 けっきょくは、あの映画は戦艦大和が壮絶な戦いの末、海の中へ沈められるという映画であったのであった。映画が終わると、みんな無言で言葉もなかった。私はコーフンして映画館から学校へ引きかえすと、教室の黒板いっぱいに、はくぼくで今、観てきたばかりの大和の戦いを夢中になって絵に描いた。頭に入った画像をすべて描き切ったように思えたのであった。描き終えると今度は急いで黒板の絵を黒板ふきで消す作業だった。先生に見つかると叱られるからである。先生が来る前に消してしまわなくてはならない。夢中になって描いたり消したり、これが戦艦大和の記憶である。
 〈大和出撃が決定された。出撃の決断に到底あらがうことができない「空気」が、会議を支配していたからである。冷静に論理的に考えれば大和出撃が無謀であったということは、当時の伊藤整一第二艦隊司令長官の見解を参照すれば明らかだ。彼は「いかなる状況にあろうとも、裸の艦隊を敵機動隊が跳梁する外海に突入させるということは、作戦として形を為さない」と思っていたから、三上作夫参謀から大本営の決定を告げられても、最初はまったく納得しなかった。だが、最後に三上参謀から、これは大本営の「空気」(「一億特攻の魁になれ!」)なのだと分かるように告げられると、伊藤長官は態度を豹変させ、「それならば何をかいわんや。よく了解した」と出撃を受け入れてしまったのである。〉(本書より)
 今、「KY」とかいう。「空気」のことである。空気を読める奴とか、読めない奴とか。空気を読もうとすると、ろくなことはない。空気を読もうとすることは逃げ場をさがしていることにすぎないだろう。問題は今の日本の空気である。







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