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評者◆第8回 兵庫県・三田市立図書館・前川千陽館長
図書館は制度によらない、人がつくるもの――指定管理者制度めぐり反対運動。「図書館思う気持ちは一緒」と対話続ける
No.3219 ・ 2015年08月15日




■2003年に地方自治法の改正によって導入された指定管理者制度。公共施設の管理・運営を民間企業に任せることで、自治体の財政負担を軽減させて、サービスの向上を図るというのが狙いだ。図書館は、この指定管理と業務委託という形式で民間企業による運営が許されている。指定管理者制度がはじまって10年を経たが、図書館で働く職員やボランティア活動に従事する地元住民などが反対運動を起こす事例も少なくない。ここでは、自治体直営から指定管理などに運営が切り替わる際の立ち上げを各地で経験してきた兵庫県・三田市立図書館の前川千陽館長に指定管理者制度の導入にまつわる話を聞いた。

■公開説明会を開く 「一緒に進めたい」

 ――三田市立図書館は前市長の肝煎りで、2014年4月に直営から指定管理者であるTRC三田に運営が変わった。指定管理者制度の導入をめぐって、反対運動が起きていたと聞いたが。
 「指定管理者制度の導入を検討している段階から反対運動が起こっていたと聞いています。4月から指定管理者として運営し始めてからは不安や疑念に基づく反対活動はなくなったと思いますが、インターネットなどを通じた批判的なキャンペーンが続いているようです」
 ――三田市は、指定管理者制度に対する住民への説明が不十分だったのか。
 「その辺は私も直接関わっていないので、答える立場にはないと思います。ただTRC三田としては4月に運営が切り替わる前に、メディアを招いて公開の市民説明会を開いて、説明しました。その後も互いの理解を深めるために、『ご意見はいつでもお伺いいたします』と市民のみなさまには呼びかけています。それぞれの思いをお持ちだと思いますが、『図書館をよくしたい』、『もっと利用してもらいたい』という気持ちは一緒だと思っています。まだ1年数カ月しか経っておらず、図書館の運営で分からないところもあるため、ご意見をいただいて一緒に進めていきたいと常々話しています」
 「これとは別個に、7つのボランティア団体の方にも、三田市の生涯学習支援課、TRC大阪支社長と一緒に説明会を何回も開きました。ボランティアの方は指定管理になったら図書館でボランティア活動ができないのではと不安に思っておられたかもしれません。しかし、そうではなく、一緒にやっていただきたいと説明しました。現在では図書館ボランティアという位置づけを明確にして活動していただいています」
 ――指定管理に反対する理由は。
 「継続性のある司書がいなくなり、サービスの質が低下するなどと言われているようです。しかし本質は資格の有無や単なる勤続年数ではなく、勤務するTRCスタッフの意識的な経験値の差だと思います。それを埋めるために、TRCや県立図書館などで行う様々な研修に参加しています。今は残ってくれた直営時代の司書が中心となってスタッフを指導してくれています。また批判される理由には、そもそも無料の社会教育施設である図書館は公の機関が運営すべきという考え方があり、指定管理者制度は図書館にそぐわないという思いもあるようです」

■蔵書に再考の余地 市とともに選書

 ――市民からリクエストされた図書の取り扱いが以前と変わったのか。出版社は、図書館がリクエストに応えるための複本に否定的だが。
 「以前はリクエストされた本は購入を原則として選書されていたようです。その結果としての蔵書構成にも再考の余地があると感じました。そこでリクエストは参考情報として位置付け、総合的な観点から選書を行うというやり方に変えました。リクエストをいただく中には図書館として蔵書にしたほうがよいという図書もたくさんあるので、選書会議で検討し、その結果を市に報告をして、市が決定するという流れをつくっています。『高額でも価値のある図書は購入してもらえた』という声もあり、ご理解をいただいてきていると思います」
 ――メディアで取り上げられるなどして、利用者は図書館が変わってきたと感じてきていると聞いた。
 「4月から開館日・時間を延長したことで、分かりやすく図書館が変わったと伝わったと思いますが、具体的には秋頃からではないでしょうか。図書館に来れば、以前より多くの講座やコンサートなどを開いていると気づいてもらえるようになりました。元々、2階にあるコミュニティホール、研修室、ラウンジをもっと活用してほしいと市から要請がありました。これまで、コミュニティホールも研修室も利用が少なかったので、コミュニティホールでは子ども向けの映画を上映したり、講座やコンサートを開催しました。研修室は自習室として開放し、閲覧室は飲食できるカフェスペースに変えました。ほとんど利用されていなかった広いラウンジは、閲覧室にあった机と椅子、さらには市に購入していただいたキャレルを置いて、自習スペースに変えました。こうした変化を新聞などのマスコミや市の広報誌が情報発信してくださり、図書館の認知度も上がっていったと思います」
■利用者96%が評価 1年たち理解進む

 ――まだ、反対している人は多いのか。
 「批判的なご意見の方々もいらっしゃるとは思いますが、昨年初めて実施した利用者の意識調査では、指定管理者による運営に対して96%の方々から評価をいただいており、ほとんどの市民の方から指定管理に対して理解を得られていると思います。1年かけて近隣の三田学園をはじめ、学校や市内の様々な施設に、お話し会やゲストティーチャーとして出向いてきました。その成果もあって、色々な事業を共催で行いませんかとお話をもらえるようになりました。また、三田学園の図書委員とヤングアダルトの棚でコラボレーションをしたり、祥雲館高校と一緒に星空教室を行ったりすることができました。周囲の理解は1年経って、かなり進んだと思います」
 ――入館者などの状況は。
 「本館のほかに、分館・分室が1カ所ずつあります。直営時代の入館者データが残っていないため、前年比でみると今年4月は6万1434人、5月は6万6758人、6月は6万4931人と合計入館者数は右肩上がり。中でも昨年12月からこれまで入館者数が最も多かったウッディタウン分館を本館が超えるようになりました。もちろん、分館の数字も落ちていません。休館日などの改善で本館本来の機能が発揮されてきたのだと捉えています」
 ――電子図書館が好評だと聞いている。
 「1年で1200人が登録し、現在は1400人ほどです。他館では1000人を超える事例はほとんどないと聞いています。いま、三田市立図書館のほか、立命館大学、大日本印刷、TRCと一緒に視覚障がいをお持ちの方などが音声ガイドで自由に電子図書にアクセスできるシステムの構築を目指して、実証実験をしています。来年にはその成果が結実する予定です。視覚障がい者サービスとしての対面朗読を止める図書館も増えていると聞きますが、三田市立図書館では、電子図書館と対面朗読はまったく別物と捉えています。視覚障がい者に対する図書館サービスの門戸をより広げるために、両方のサービスをボランティアの方々と一緒に、やっていきたいと考えています」
 ――反対運動のなか、指定管理者として続けていくには。
 「市の担当部署・生涯学習支援課の協力がなければ、うまくいかなかったと思います。市も責任をもって図書館をよくしようと思っていただいているので、分からないことや困ったことがあれば相談をし、フォローをしていただいています。また、市民グループを紹介してもらうなど、地域市民との繋がりを持たせていただいています。それから、運営評価委員会でのご意見を伺って、改善すべきところは直すようにしています。そして、TRCとしての会社のバックアップもあります。過去に勤務した他の図書館でもそうでしたが、自治体とどれだけよい関係を築いていけるかが、指定管理の肝だと思います。それがなければよい運営はしていけないでしょう」
 ――指定管理でも直営でも、図書館をしっかり運営してくれる館長とスタッフがいれば、手法の問題ではないと指摘する人もいる。
 「私は元々、大阪府の河内長野市の直営である市立図書館で働き、図書館員の基礎を学んできました。その後に、図書館流通センターに入社して、大阪市立中央図書館、大阪府立中之島図書館の業務委託の立ち上げを経験したあと、指定管理者として兵庫県播磨町立図書館での館長も経験しました。つまり、直営も業務委託及び指定管理者も経験し、両方の立場が分かるようになったと思います。そのうえで、両方の考えに整理をつけるのに3年くらいかかりました。行きついたのは、両方の立場を認めることだと思いました。どのやり方も全能ではありません。直営でも開館時間を延長したり、多くの行事を行うなど素晴らしいサービスを行っている図書館はたくさんあります。図書館は制度によらない、人がつくるものだと思います」







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