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評者◆秋竜山
声を出さず、軍歌は口笛で、の巻
No.3217 ・ 2015年08月01日




■井沢元彦『新聞と日本人――なぜ、真実を伝えないのか』(祥伝社新書、本体七八〇円)に、軍歌のことが。私は日本があの戦争をしていた時にうまれた。だから戦争体験というものはなかったというか、記憶にないといったほうがいいかもしれない。戦争に行ってきた父は、毎日お経をとなえるように自分の戦争体験を話した。要するに戦争の話ばかりする父であった。それも、同じ話ばかりであった。ある時、子供の私は父にいった。「もっと違った戦争の話はないの?」。すると父は一瞬、黙ってしまった。そして又、同じ戦争体験の話をしだしたのであった。父は別の話をしていても、いつの間にか戦争体験談にかわってしまっている。父自身、同じ話であるとわかっていただろうけど、なぜ同じ話になってしまうのか。それだけの体験しかなかったのか。そんなことはなかったと思う。10年以上兵隊をして家をルスにして戦地で生活した父であったのだ。いくらでも体験した話はあったと思う。それを全部忘れてしまったからなのか。私は不思議でならなかったのだが、大人になって私の気づいたことは、いくら生死をさまよう戦地での体験であったとしても、話していい話と、話してはいけない話があったのだろうということだった。もちろん、それは家族に対しての父の考えかたであったのだと思う。いくらなんでも家族にこんな話ができるわけがない、という話ばかりだったんだろう。私は、それなりの聞いた風の軍歌を歌ったりするが、本格軍歌からみると、かなりいいかげんな歌である。詞も曲もいい加減におぼえたでたらめ軍歌である。いつの間にかおぼえた軍歌である。
 〈イデオロギーを歌にするというのはすごく大きな意味を持ちます。なぜなら、歌は大人から子供まで、教養があってもなくても、誰でも歌えるからです。そして歌うことで、知らず識らずのうちにその歌に内包された思想が人々の心に深く刷り込まれていくのです。そのため、日本人は何でもすぐに歌を作ります。「勇敢なる水兵」という有名な軍歌があるのですが、これができたのは日清戦争の直後の明治二十八(一八九五)年でした。
一、煙も見えず雲もなく風も起こらず浪立たず、鏡のごとき黄海は曇りそめたり時の間に
二、(略)
三、戦い今かたけなわに務め尽せるますらおの尊き血もて甲板は
 から紅に飾られつ
(八番まで略)〉(本書より)
 軍歌は応援歌である。応援歌となれば、歌の内容は「ガンバレ!! ガンバレ」と、いうことになるだろう。「戦争をガンバッテ!!」と、いうことだ。
 〈どれもリズミカルで明るい曲調をしています。(略)当時の人々はこうした軍歌を歌うことで、戦争を美化、肯定する気持ちを自ら強めていったのです。〉(本書より)
 その内に、新しい軍歌を歌わされる時代がきたとしたら、どーしましょう。声を出さず、軍歌は口笛で。







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