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評者◆第7回 おおぶ文化交流の杜図書館・峯岸進館長
セルフ貸出率96%! 人口8万9000人で7000冊超――TRCの図書館運営のノウハウを集大成
No.3217 ・ 2015年08月01日




■名古屋駅から南に約25キロメートルに位置する愛知県大府市の「おおぶ文化交流の杜」は昨年7月、図書館やイベントホール、レストランなどが融合した文化施設(地下1階・地上3階)として、オープンした。延べ床面積1万3800平方メートルのうち、図書館ゾーンは3650平方メートルを占める。驚いたのは、多くの本が貸し出された結果、図書館入口正面にあるテーマ別書架に本が半分程度しか入っていない光景だ。図書館長を務める峯岸進氏は「今の時期は平日で2000~2500冊、土日は7000冊を超える貸出がある」という。「大府市の人口約8万9000人でみると、おそらく1人当たりの貸出冊数は日本一ではないか」と話す峯岸館長(39歳)に話を聞いた。

■テーマ別棚、IC フル活用が奏功
 ――書架がこれほどスカスカになっている図書館を見たことがない。同館の蔵書数は27万5000冊もあるが、なぜこれほど貸出が多いのか。
 「テーマ別コーナーで大府市の地域性に配慮し、『健康』『暮らし』『子育て支援』『ティーンズ』など独自のジャンルで並べているのが好評で、自動貸出や予約棚、オートライブの導入などICをフルに活用している成果もあると思う。貸出総数の96%が自動貸出機によるもの。通常はカウンターで貸出す予約本も、予約棚と自動貸出機で、利用者自身が借りることができるのも大きい。1人当たりの貸出冊数の上限も20冊と多い。さ
らに、日本全国どの地域に住んでいても、利用者カードを登録することができる。1日の平均入館者は1500人。貸出総数の割合を見ると、一般書が50%、児童書が35%、残りが雑誌やAV資料など。児童書の数字が他館と比べてやや高いという状況になっている」
 ――96%の貸出がセルフというのも聞いたことがない。
 「貸出カードの登録の際、利用者一人ひとりに『自動貸出機を利用してください』と案内している。また、一見、貸出カウンターにみえる場所も、『総合案内』とうたっているので、利用者が自動貸出機を使うのが当たり前の状況になっている。貸出の自動化で、スタッフの時間を捻出し、本の案内や調べ物の手伝い、イベントや講座の運営など、人にしかできないサービスに力を入れている」
 ――この図書館はPFIという手法で建設から運営まで行っていると聞いた。
 「図書館だけでなく、この施設全体がそうだ。建物の設計から建設、運営、維持管理をおおぶ文化交流の杜株式会社という特定目的会社が請け負っている。この会社は設計や施行などを請け負う鹿島建設や佐藤総合計画など4社、運営・維持管理の図書館流通センター(TRC)やJTBコミュニケーションズなどの3社、合計7社で構成している。事業期間は平成41年3月31日までの15年。事業費は100億円。PFI事業は、民間の資金や経営能力などを活用して設計から維持管理までを行う公共事業の手法。これによって、大府市は市が直接事業を実施するよりも、財政負担が6・9%軽減されると試算している」

■PFI図書館 設計から参加 利便性兼ねたレイアウトに
 ――その会社の中でTRCはどういう役割を担っているのか。
 「図書館の運営を担っている。オープン前の2011年から、建設段階における打ち合わせが始まった。我々は、TRCの子会社で図書館の設計支援や運営コンサルを手がける図書館総合研究所とともに、ユニバーサルデザインを基本とする図書館内のレイアウトなどを手がけた。PFIのメリットは、設計段階から参加できる点にある。たまに、デザインが先行してしまって、書架の配置や棚のサイズなどの面で利用しづらい図書館を見ることがある。TRCはこれまで様々な図書館をみてきた蓄積があるので、利便性をあわせもった空間デザインを提案できたと思っている。ゾーンで区分されたグラフィック書架と絨毯のカラー、馬蹄型のおはなし会スペース……。ユニバーサルデザインに関しても委員会を立ち上げ、実際に障がいを持つ方にも話を伺った。その結果、車椅子の方と健常者がすれ違うことができる書架の幅、3段の手すり、ワンフロアで段差のない床、車椅子の方でも本を取れる棚の位置などに気を配ることができた。また、県内のTRCスタッフからも協力を得て、新図書館の図書の配置などについてアドバイスをいただいた。その結果、利用者が最も多い入口正面にテーマ別の棚ができた。この図書館はTRCが十数年もかけて積み上げてきた、図書館運営ノウハウの集大成ともいえる」
 ――同館の特徴的なところは。
 「11グループ・144人ものボランティア。そしてボランティアが活動をお披露目する場としての『図書館 子どもまつり』をメーンとする多数のイベントを開催している。また、『文章』『ふるさと』『子育て支援』の3つを柱とする講座も年間約14回実施している。一回の定員は30人程度で、ほぼ毎回満員となる。イベント以外では、先ほど触れたIC化。閉架書庫にある書籍を90秒でカウンターまで出納するオートライブという機械や、利用者が予約した本を取り置く予約棚が設置された無人スペース。予約データと本を紐づけているので、利用者自身が自動貸出機で処理ができる」
 ――峯岸館長は同館だけではなく、東海地区の図書館の新規立ち上げにもかかわってきたと聞いた。
 「司書資格をとって、初めて図書館員として働いたのが、日本で初めての図書館PFI事業の『くわなメディアライブ』(三重県)だった。4年修業する中、図書館のスペシャリストの上司に、図書館の仕事を一から叩きこんでもらった。また、大塚由良美さん(当時、生涯学習課長)の郷土資料勉強会で、その地方の郷土資料の重要性を学ばせていただいた。それらが今ではすごい財産となっている。その後も岡崎市立中央図書館(8000平方メートル)、一宮市立中央図書館(7000平方メートル、ともに愛知県)の大型館の立ち上げにも携わった。岡崎も一宮も指定管理ではなく業務委託だった。ただ、岡崎はカウンター業務と移動図書館の運営と限られた範囲での業務委託だったが、一宮は幅広く業務全般を任せていただいた。業務委託は、決められたルールを忠実に守ることが求められる。自治体によって、その考え方は様々だが、仕様書に書かれていないことをして越権行為になってもいけない」

■『海辺のカフカ』で図書館員に転職
 ――くわなメディアライブに行くきっかけは。
 「大学卒業後にオーストラリアの寿司屋で働いていたとき、『海辺のカフカ』(村上春樹)を読んで、図書館員になろうと思った。本に登場する甲村記念図書館での図書館員の仕事に惹かれるものがあったから。それで、日本に帰国してすぐに司書資格を取得して、ちょうど開館のため人を募集していたくわなメディアライブに応募した。実際に仕事をして思ったよりも力仕事が多く、ハードだと感じた」

■地方書店と連携 会場で本販売も
 ――『海辺のカフカ』は別格であるが、文芸書は売れなくなって厳しい状況にあると出版社は言う。その一因として、図書館の貸出数の増加を指摘している。出版業界と図書館が連携できる術はないか。
 「この図書館は、地元の3書店から雑誌を仕入れている。また、イベントがあるときは書籍の販売をお願いしている。昨年のオープン時には絵本作家の木村裕一さん、作家の荒俣宏さんに来ていただき、サイン会を開いた。その時も書店さんに本を売っていただいた。今年9月に行われる『避難弱者』の著者・相川祐里奈さんとの東日本大震災のイベントでも、会場で本を販売してもらう予定だ。また、同館のホームページでは書籍の検索結果の画面からネット書店で本を購入できるようにもしている。課題図書や本屋大賞など予約が多く、借りることが難しい本を、書店さんに販売してもらうのも面白いかもしれない。しかも、課題図書は夏休み期間の限定なので、もしかしたら売れるかもしれない。図書館に借りに来る人の中には買う人もいる。一概に影響しているとは言えないのではないか」







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