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評者◆松本卓也
レイシズムが在日コリアンのメンタルヘルスに与える影響の調査が必要である――国内にまぎれもないレイシズムが存在することを認めさせるには、客観的なデータが必要
No.3216 ・ 2015年07月25日
■本欄の第一回は、清原悠氏による「レイシズムを抑制するには何が必要か」という問いではじまっている。これまで様々な論者が立ち代わり議論を重ねてきたとおり、本邦におけるレイシズムの高まりやヘイトスピーチ・ヘイトクライムが抑制されるべきであるものであることは疑いえない。では、実際に抑制するためには、どのような研究が必要だろうか。歴史修正主義に対する批判(清原氏、本紙3167号)や、「差別の否定」に対する抵抗(明戸隆浩氏、同3169号)、レイシズムを煽動する極右活動家の来歴やメンタリティを明らかにすること(古賀光生氏、同3179号)、レイシズムを支える現代のナショナリズムの分析(山崎望氏、同3193号)はおおいに必要であろう。
しかし、それだけでは不十分である。なぜなら、こういった社会学や政治学などの広義の人文知からの批判がこの国の「エスタブリッシュメント」に聞き届けられるようになるには――非常に残念なことなのだが――長い道のりが必要と思われるからだ。そもそも、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づける人種差別撤廃条約4条(a)(b)をいまだに留保しつづけている日本は、国内に憂慮すべき差別が存在することを認めていない。そう、私たちは、あらゆる反レイシズム運動の前提として「レイシズムの存在を国に認めさせ反差別政策をつくらせねばならない」(梁英聖氏、同3171号)のである。 国内にまぎれもないレイシズムが存在することを認めさせること。そのためには、客観的なデータが必要である。2014年以降、ヒューマン・ライツ・ナウや在日コリアン青年連合等のいくつかの団体がヘイトスピーチの実態調査の報告書を出したことは記憶に新しい。それらの報告書をみれば、ヘイトスピーチの標的となった在日コリアンが怒りと悲しみと恐怖を感じ、さらには現実に社会生活を脅かされていることが手に取るようにわかる。しかし、ポストコロニアリズムはおろか人文知をまともに学んだこともなければ、おそらくマイノリティのことなど一度も真剣に考えたこともないであろうこの国の「エスタブリッシュメント」たちにそのことを理解させるためには、主観的データの収集だけでなく、それと並行して、有無を言わせないようなさらなる客観的データを、様々な分野から提出していくことが必要である。 ここでは筆者の専門である精神医学のことを考えてみたい。筆者はレイシズムの問題にかかわり始めて日が浅い。そこで精神医学におけるレイシズム研究のことをあらためて調べてみた結果、実に驚くべきことがわかった。それは、海外では、黒人差別を筆頭にレイシズムがメンタルヘルスに与える影響についての精神医学研究は少なからぬ蓄積があるにもかかわらず、本邦ではまともな研究がひとつもなされていないということである(信じられない向きは、PubMedでracismとmental healthをキーワードに検索をしてみるとよい)。その理由は推測することしかできないが、本邦における人種差別の理解が圧倒的に遅れていたことのみならず、在日コリアンにまつわる諸問題がタブーとされてきた歴史もおそらく関係しているのだろう。 海外の研究によれば、レイシズムは、重大な人権侵害であるにとどまらず、差別の対象となった個人にうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった精神疾患の関連症状を引き起こすことが知られている。他方、本邦におけるレイシズムによるメンタルヘルス上の影響については、断片的な症例の報告があるだけであり、実際にどれだけの在日コリアンが差別煽動によってメンタルヘルス上の被害をこうむっているのかは、現状明らかではない。 さらに、差別された人々は、心的ストレスの影響から、アルコール依存や薬物依存に陥りやすいという知見も、海外の研究では確かめられている。依存症が被虐待者や社会のなかで周辺化された人々に多くみられるという事実と同型のメカニズムであろう。在日コリアンにおける依存症の問題がどの程度存在するのかは定かではないが、依存症の形成の背景にまで迫る議論が具体的なデータをもって提起されないかぎり、彼らにおける依存症の存在は、あらたなスティグマを生み出してしまいかねない。 海外では、目下進行中の世界的なナショナリズムとレイシズムの高まりを背景として、レイシズムとメンタルヘルスの問題を扱う論文の数がここ数年で一段と増えつつある。口うるさくグローバル化を要求する精神医学のアカデミズムは、今こそこの分野を発展させるべきである。 (精神病理学/自治医科大学精神医学教室) |
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