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評者◆石本秀一(ジュンク堂書店ロフト名古屋店)
ユーモアあふれるエッセイ集
迷う門には福来る
ひさだかおり
No.3216 ・ 2015年07月25日




■この本の著者であるひさだかおりさんは、私と同じ名古屋で働く書店員です。書店の文芸書売り場を見渡せば、販促用のパネルやPOP、本に巻かれた帯などに書店員のコメントを使ったものがいくつもあると思いますが、そこでひさださんの名前を見つけることはそんなに難しくないはずです。彼女の勤めるお店はそれほど大きな店ではないし、場所も名古屋の中心部ともいえない場所です。けれどもそこで楽しい売り場を作り、POPやフリペで本をおススメしてくれる彼女は、出版社の編集や営業、全国各地の書店員、そして(この本の販促用のパネルに14人もの作家の方々がコメントを寄せてくれたことからもわかるように)作家さんたちにも名前をよく知られた業界内の有名人、とても優秀な書店員なのです。
 そんなひさださんが本を出しました。「WEB本の雑誌」で人気のあった連載をまとめたものです。これまでにも書店員が書いた本はいろいろあったと思いますが、そのほとんどは書店で働く日々を綴ったものや、本についてのあれこれを書いたものだったのではないでしょうか。もちろんひさださんの本にも書店員だから体験した出来事も書かれています。研修中の失敗談やお店に出没するオケラの話、本屋大賞授賞式会場への行き帰りのドタバタや、レジの中で走って転んでゴミ箱に頭から突っ込んだとかいう話です。これはこれで面白いのですが、ほとんどの話は特に書店員ということは関係なく、極度の方向音痴で道に迷って行きたいところには行けず、普通の人と比べて苦手なものが多くて困った状況に陥る彼女のサバイバルな日々のエピソードなのです。車で出かければ目的地にたどり着けなかったり、帰り道を見失ってあらぬ場所へ行ってしまったり、駐車場では自分の車を停めた場所がわからなくなったり(そもそも車で来ていなかったり)する。買い物しようと出かけたら財布を忘れていたり、財布があってもお金が入っていなかったり、ATMで2万円おろそうとしたら出てきたのが2円だったり。地下鉄名城線が苦手で、中でも金山駅は鬼門。カップ麺を作れば食べ終わった後でスープの袋を見つけるなどなどと紹介しているとキリはないですが、次から次へと面白エピソードが披露されます。
 そう言えば、ひさださんと私が出会うことになった時もこんな感じでした。以前から知り合いだったS社の編集Mさんが、担当している名古屋在住の作家Oさんと、この本にも同業他社の友だちとして何度も登場しているYさん、そしてひさださんと私というメンバーでセッティングしてくれた飲み会。なかなかひさださんがやってこないので、オイスターバーなのに牡蠣も食べられずに待っていた我々のもとに届いた知らせは「違う方向のバスに乗ってしまった!」という、大人の遅刻の理由としてはあんまり聞いたことのないものでした。今となってはそんなことは彼女にとっての日常茶飯事だとわかっているので、驚きもしませんが(笑)。
 世の中には方向音痴の人がけっこういて、中にはそれを隠していたり気にして悩んでいたりする人がいるかもしれません。それに限らず、くよくよしたり落ち込んだりしている人には、ぜひ『迷う門には福来る』を読んでもらいたい。エピソードの面白さ、それを伝える文章力、自らの失敗を笑い飛ばしているかのようにユーモアあふれるエッセイは、きっと読む人の気持ちを楽しく元気にしてくれると思うから。







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