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評者◆第6回 宮代町立図書館(埼玉)・山本茂樹館長
地域にとって最も効率的なエコ図書館を考えていく時代――地域に根差した専門スタッフの育成こそ指定管理者のメリット
No.3215 ・ 2015年07月18日




■1994年1月、埼玉県の宮代町に町民待望の宮代町立図書館が、東武動物公園の近隣に開館した。当時は町村レベルで東日本一の規模を誇り、地域住民のコミュニケーションの場として活用されてきた。しかし、景気低迷などで宮代町の財政運営が厳しさを迫られる一方、利用者ニーズはますます多様化していった。これらの課題を解決するために、宮代町は指定管理者制度を導入、2011年4月から図書館流通センター(TRC)が同館を運営している。元日本航空社員という異色の館長である山本茂樹氏(65歳)は、「この図書館の特徴は、町がしっかりとしたビジョンを持ち、図書館への住民参加という意識が定着していること」と話す。同館運営5年目に入り、13年度は町民1人当たり貸出冊数が埼玉県の市町村で2位を記録。利用者数や行事の参加者数も増え続ける同館を取材した。


■図書館ビジョン 自治体が策定
 ――指定管理導入前の10年度と比べて、2014年度の個人貸出者数が29・4%増、同入館者数が11%増、同個人貸出冊数が6%増と実績を伸ばしている(※別表)。宮代町立図書館に赴任した当時、どのような考えで運営にあたっていたか。
 「宮代町は指定管理者制度を導入するにあたって、『使いやすく、先進性を備え、町民の誇りとなり得る図書館』をキャッチフレーズとする将来ビジョンを策定していた。具体的には、①町民ニーズに対応した利用者サービスの改善、②ITを活用した利用者サービスの展開、③魅力ある蔵書構築と情報提供能力の向上、
④子どもの読書活動の推進と小中学校との連携強化、⑤柔軟で弾力性のある運営体制の構築と施設の整備――を掲げている。基本的にはこの方針に基づいて運営しているが、こうしたビジョンを持つことは極めて重要。財政改革のために経費を削ることだけを考えて指定管理者制度を導入しても、どう運営していくかの方針がはっきりしない場合、町や図書館の担当者が変わると方針も変わる可能性があり、運営方針がブレてしまう。その点で宮代町はしっかりしたビジョンを持ち、図書館運営への町民の参加意識が高く、ボランティア活動が盛んである。町と住民、そして指定管理者(TRC)という三者が協働する中で、それぞれの役割・考えは明確になっており、我々にはより高い専門性が求められた。そのため、私はスタッフ育成に注力した」

■16人中14人が司書資格持つ
 ――宮代町の図書館ビジョンにも、「保育士、看護師等の専門職採用はできても図書館司書の新規採用はできない」と書かれていた。専任の図書館司書を置くのは難しいことなのか。
 「指定管理の問題は色々と言われていることもあるが、私は正直、図書館を大事にしているのであれば、直営(行政が運営)でも指定管理者でもどちらでも構わないと思う。ただ、行政は専門スタッフを育てるのが難しい環境にある。それは行政組織の宿命で、小さな町では、職員をジェネラリストとして様々な部署にローテーションで回していかなくてはいけないからだ。だが、TRCという図書館専門の会社であれば、地元でスタッフを採用して司書に育てることが可能である。今ではスタッフ16人のうち、14人が司書資格を持っている。中には、仕事に広がりが出て面白いと働きながら司書資格を取ったパートの人もいる。これが指定管理者のメリット。一方で町の意思をしっかりと図書館運営に反映することが課題となる。その意味では、図書館ビジョンが町と指定管理者のベクトルを一致させる重要な指針となる」
 ――指定管理者には地域の女性人材を活用できるというメリットがある。政府の地方創生・女性人材活用という方針とも合致する。
 「地域の『知の拠点』である図書館の運営には、経験と専門性に裏付けられた心豊かな地域女性人材の活用が欠かせない。地域の女性が図書館をライフワークにすることにより、地域に根差した図書館運営が実現できる」

■自治体に適した効率的な運営を
 ――ビジョンにある利用者サービスの改善の中で、相談窓口に司書スタッフを常駐させるなど専門性への取り組みのほか、開館日・時間の拡大、貸出冊数制限の撤廃、町の公共施設へのブックポストの新設、無線LANが利用できる持ち込みパソコン優先席の設置による若年層の新規開拓――などを実施してきた。これらの取り組みが冒頭の実績につながっている。
 「蔵書点検休館日を年2回から1回に、年末年始・休日振替の休館日も減らした。開館時間も1時間延ばした。ただ、開館時間を延長すればいいとは思っていない。データを見ると、延長した平日時間帯の利用者がほとんどいなかった。東京のように平日夜遅くに利用したい人がいるならそれでいいが、宮代町も東京と同じようにはいかないのではないかと思う。地域には地域の人たちの生活パターンがある。さらに、どこの地方都市もそうだが、財政難で図書館運営費は節減される傾向にある。そういう中では利用者の利便性と市町村の課題である経費削減とを考えて、できる限り効率的な図書館運営を考えていかなければならない。これまでのような、指定管理者が開館時間を延ばして利用者を増やすというパターン化された提案を考え直す時期に来ているのではないだろうか。どの市町村も財政は厳しい。だからこそ、例えば開館時間を1時間短くして、電気代などの浮いた経費を図書購入費に充てる。これは図書が増えるという意味で利用者のプラスになるし、町のコストも削減されることになる。地域にあった一番効率的な図書館とは何なのか。そういうエコな図書館を考えていく時代だ」

■高い町民意識 40人を超えるボランティア
 ――開館以来、ボランティアとの取り組みが盛んと聞く。
 「年間の行事参加者数が14年度には4000人を突破した(約40回実施)。その半数以上を40人以上のボランティアの方々が主催している。それにスタッフ16人でこれだけの行事を開けるのも、すべてボランティアの方がいるおかげ。ボランティアの方は主に児童向けの催事を開催しているが、私たちは一般向けに、地域に関連する各施設とタイアップしたイベントを実施している。東武動物公園のホワイトタイガーの赤ちゃんの飼育員の方、東武博物館、宮代町郷土資料館、日本工業大学など様々な方に講演してもらった。また、ボランティアの方々にはイベントのほかに、『お助け隊』として書架の整理や本の修理なども手伝ってもらっている」
 ――一部の出版社から売上に影響するという理由で、図書館に貸出猶予を求めるという意見が上がっているが。
 「図書館は無料貸本屋という旧態然とした話をするのではなく、電子書籍の時代の『出版業』を流通を含めて抜本的に組み立て直すべきときではないのか。私も航空会社という、ある意味、権益に守られた業界にいた。規制緩和の波がきたときに、避けられないその流れに遅れをとってはいけないと思った。規制緩和を
防ごう、遅らせようという努力は徒労に終わる。出版界も今までのやり方に固執するのではなく、高度情報化社会を迎えてマーケットが多様化する中、出版・流通構造をどう改革し、成長させていくかを考えるべきではないだろうか。出版が廃れてしまえば、図書館も共倒れになる。ひいては地方が情報過疎地となってしまう」

■予約・貸出データ 増刷部数の判断に
 ――事前のヒアリングで、出版社と図書館のコラボレーションできる点について、「新刊書籍の予約・貸出状況を調査して、増刷部数の判断に役立てる」「ジャンル別に貸出状況を調査し、読書傾向を出版企画に活用する」と答えていたが。
 「こういう時代にこそ、マーケティングは必要。そのために、図書館も全国規模の流通なのだから、互いに協力すべきだと思う。出版文化はお互いが支えているのだから。流通といえば書店だけで、図書館は流通ではないように見られる。それは残念だが、一方で図書館にも出版社に協力する用意がない。文部科学省や文化庁が電子書籍時代の著作権の扱いも含め、大きな枠組みで出版文化を盛りたてることを考えるときに来ている。出版業界と図書館協会が協働して問題提起をしていくべきだと思う」







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