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評者◆内堀弘
なんだかんだの池袋――西武古本まつりの頃
No.3215 ・ 2015年07月18日




■某月某日。リブロの池袋本店が、まだ西武百貨店書籍部だった頃、毎年二月に大きな古書展(西武古本まつり)が開かれていた。駆け出しの私も参加した。
 会期は一週間で、初めて参加した一九八一年の売り上げ目標は五千万円。途方もない数字に思えたが、お客さんの数も桁違いだった。初日の朝十時、誰もいない会場に地響きが鳴る。あちこちのエレベーターから、階段から、会場めざして人が押し寄せて来るのだった。広い会場はたちまち埋まって、棚の前に近づくこともできない。
 三~四年が経つと、目標額は一億円になっていた。何百万もする古典籍やコンテンポラリーアートが並んだわけではない。ここは、北区とか練馬区、板橋区という東京の北部地区の古本屋が主体で、神田の老舗は参加していない。普通の(というとまた微妙だが)古本屋でこの目標額も突破する。ポスターに「なんだかんだの池袋」と絶妙なコピーを載せて、古書組合の神田支部から真顔で抗議された。あの頃の店長が今泉棚で知られる今泉正光さんだった。
 書籍部はもうリブロになっていた。目の覚めるような書店だった。新刊書店は、所詮どこにでもあるものしか並んでいないと、若造の古本屋は思っていた。だが、本屋は棚を編集するのが仕事だと知った。それが、なんとも挑発的だった。そうなると、ただ規模が大きい古書展は面白くない。一途というのか、影響を受けやすいのか、古書展を辞め、店売りも辞め、私は古書目録を作りはじめた。そこが私の棚だった。
 二〇一〇年、雑司ヶ谷に「ひぐらし文庫」という五坪ほどの小さな書店が開いた。店主の原田真弓さんは長くリブロに勤めた人で、退職金でこの店をはじめた。『「本屋」は死なない』(石橋毅史)で彼女のことを知った。「書店員が退職金ではじめられる本屋があっていい」「こういう本屋が全国に千軒できたら世の中変わる」(引用は記憶)。もちろん千軒の店ができるには、その背後で倍する数の試みが潰えていく。それでも、と彼女が語りはじめたことを、この本は都合のいい言葉でまとめない。
 原田さんから、ひとまず閉店しますという案内をいただいた。私はその日を間違えて、出かけると店はもう空っぽだった。
 リブロ池袋本店が七月で閉店になる。その事情にあまり興味はないが、感慨はある。でも、雑司ヶ谷の小さな空き店舗の前に立ちすくんだ日の感慨の方が、私には何倍も深い。







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