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評者◆番外編 図書館流通センター・谷一文子代表取締役会長
すべての問題の根本は資料費の削減にある――図書館と出版社が互いに意見を言える場を設けるべき
No.3213 ・ 2015年07月04日




■一部の文芸出版社や文芸作家は、図書館の本の貸出数の増加が出版社と著者の利益を侵害している、と図書館を批判する。また、図書館と取引のない書店なども本を無料で貸し出す図書館を敵視する。その一方で、ある書店員は図書館と書店の役割は違うので共存は可能と訴える。さらに児童書や専門書出版社は、もはや図書館抜きの出版活動は考えられないとも公言する。出版界の中でも様々な意見が飛び交うが、図書館問題の本質とは何なのか。シュリンクする出版市場の中で、出版社や書店は、図書館とともに共存共栄を模索していくべきではないのか。ここでは、多くの図書館に書籍を納品し、指定管理業者としてもシェアナンバーワンの図書館流通センター(TRC)の谷一文子代表取締役会長に、出版界と図書館の課題を整理してもらい、両者の連携策などを提言してもらった。(聞き手=諸山誠)

 ――今年1月以降、一部の出版社が、図書館の貸出数の増加が出版社と著者の利益を害するとして、貸出猶予を求めてきた。初めに図書館業界の現状を教えてほしい。
 「まずは日本図書館協会が発表している数字について。図書館数は毎年右肩上がりを続けてきたが、2013年度に初めて前年よりも2館減少した(3246館)。個人貸出数は10年度の約7億1618万冊をピークに、3年連続で減少している。ただしこの数字は、11年3月11日の東日本大震災が影響していると考えられる。しかし、図書館にとって、最も深刻な問題は資料費の減少である。1館あたりの資料費は、90年代後半には平均1500万円近くもあったが、2000年代後半になると1000万円を割り、13年度は約879万円にまで落ち込んだ。図書館業界全体でも、資料費はかつて約360億円あったが、2000年代には300億円を割ってしまった。伊万里市民図書館(佐賀県)の古瀬義孝館長によれば、『伊万里市規模の図書館で資料費が1800万円を切ってしまうと、蔵書の量と比較して、「新しい本が入った」と利用者に感じられなくなってしまう』そうだ。これは書店の品揃えなどと同じ問題で、図書館でも毎週新しい本が入ってくれば利用者は新鮮さを感じてくれる。しかし、資料費が減っていけばいくほど、新鮮味も感じづらくなり、魅力の乏しい図書館になってしまう」
 ――1館平均の資料費がこれほど長きにわたり減り続けてしまった図書館の現状は。
 「新刊書籍の購入冊数が減っていくのを防ぐために、仕方なく低価格の本を買ってしまう。それが、一部の作家や出版社が指摘する文庫論(図書館は個人が購入できる文庫ではなく、ハードカバーの本を揃えるべきという指摘)になるのだが、資料費が減る状況で一定の蔵書数を維持するためにはやむを得ない側面がある。また、すべての文庫を買ってはいけないとは思わない。親本が絶版になっていたり、オリジナルの文庫や書き下ろし文庫が増えているため、文庫でしか揃えられないタイトルもある。しかし、本来司書は適正な予算があれば、堅固で多くの利用に耐えるハードカバーでコレクションしたいと思っている。図書館における多くの課題の根本は、この資料費の減少にあるのではないかと考えている」

■1館平均、1千万円以下 見えづらい地域への貢献

 ――図書館数も貸出数も2010年頃までは増加している中、1館当たりの資料費が減り続けるというのは、少々矛盾に感じるが。
 「バブル崩壊以降に自治体の税収が減ったことが、資料費削減の一番の原因だろう。各自治体で、2割、3割とバッサリ減らされるところも多かった。また、いわゆる自治体の平成の大合併のときも、統合後に図書館の館数こそ減らされなかったが、全体としての図書館予算が減らされた。私たちもこれまで毎年図書館に、予算についての調査をしてきた。すると、『また5%下がりました』とか、ときには『十数%下がりました』という図書館がかなり多かった。ただ、今年度になって、ようやく下げ止まった感が出てきた。そういう傾向にある一方で、新しい図書館がどんどんつくられていった。これはおかしな話で、本来は1館1館の予算は維持されたうえで、新しい図書館がつくられないといけない」
 ――どうして、こうも図書館の資料費はすぐ削減されてしまうのか。
 「はっきり言えば、図書館が地域に貢献しているということが見えづらいのだろう。とくに学校図書館でよく言われるが、総務省は交付税で予算をつけているという。しかし、その使途は図書費に限定されていない。そのため、自治体はもっと緊急の福祉や道路などの予算に使ってしまう。図書館は緊急度と費用に対する効果が見えづらいと思われ、減額の対象になってしまう傾向がある。ただこれは、自治体の首長が読書をどうとらえているか、考えひとつで変わってくる。例えば、埼玉県三郷市や兵庫県明石市、鹿児島県出水市など、『読書で市民の知的レベルを上げ、子どもたちの学力を向上させて町を活性化させる』というような目標をもっている自治体は多い。そのような自治体では、図書館に対して手厚い予算をつけている」
 ――多くの図書館がかなり厳しい運営状況にある。それでも、同じ本をどんどん購入(複本)して貸出数を増やし、まるで図書館が栄えているかのように、一部からは見られているようだが。
 「まず、必ずしもすべての出版社が図書館に問題ありとは考えていないということをはっきりさせたい。大手の総合出版社でも、総合的に見て図書館のメリットを感じておられるのだろう。図書館に問題があるとは言われていない。それに約10年前にも複本問題について出版界から指摘を受け、さらには資料費減が続く中、アイテム数を増やすためにも、複本購入自体はかなり減っていると見ている。一部の文芸出版社と文芸作家の方が、図書館の貸出冊数が増えることで書店での販売冊数が減っていると主張されていることは知っている。ただ、私はその作家さんのファンであるならば、尊敬の念をもって発売日に書店に買いに行くと思っている。図書館で借りる人は必ずしもファンではなく、『流行っているからちょっと読んでみよう』という人が多いのではないだろうか? 図書館で読んで、『面白い』と思えば、次は書店に行って、その作家さんの別の作品を買ったり、新刊が出れば買いに行くようになるのではないだろうか。思うに、全体的な文芸書の売れ行き低迷というのは、娯楽というか、楽しみとして文芸書を買っていた人たちの数そのものが減ってしまったことも原因の一つではないか。現在では映画や音楽、ゲームなど他の娯楽も増え、ネット環境の整備とともにスマートフォンやPCなどで安価に様々なサービスを享受できるようになった。書店さんへの客数が減っているのも、大きくはそういう理由も考えられるのではないだろうか」
 ――一方で、児童書や専門書は図書館をビジネスパートナーと見ている。文芸出版社との違いは何か。
 「児童書も専門書も、初刷は数千部だと言われ、それほど多くはない。文芸書の初刷が現在どれくらいなのか正確な数字は分からないが、例えば初版1万部だったとしても、重版がかからないとペイしないとよく言われている。そういう意味では、児童書や専門書は、公共図書館が約3200館あれば、部数として十分まかなえる。児童書にいたっては、全国に約3万校と言われる、小中学校の学校図書館も購買の対象となる。さらに書店への流通数を考え、きちんと商売をされているのではないだろうか。TRCではそのほかにも、ビジネス書、実用書など様々なジャンルの出版社と取引させていただいている。どの出版社からでも、図書館向けだと思われる本はいち早くTRCの仕入部に相談が来る。さらに、公正に選書するために様々な方による選書委員を外部に設けて、図書館に必要な図書を選定し、確実に図書館に納入するために在庫を確保する『新刊急行ベル』というシステムも構築した。ここでは、文芸書をはじめ、児童書やビジネス、医学、教育などオールジャンルから図書を選定し、契約していただいている図書館に向けて冊数を確保している。図書館には、図書館用の装備を施してから納入されることもあり、通常流通のように多くの返品を生むものではない。よって、多くの出版社さんから支持されていると思っている」

■出版社、流通チャネルを模索 業界挙げてロビー活動を

 ――図書館がこれだけ注目されるようになったのは、出版業界の売上低迷によるものなのか。
 「昔は書籍を、書店に置けば売れる時代だった。100万部のヒット作品を連発していた時代に、たった3000館ほどの図書館という顧客は、見向きもされてこなかった。そもそもTRCが構築した『ベル』は、図書館が利用者に求められて文芸書が欲しくても、なかなか手に入れることができなかったため、まとめて在庫を確保するためにつくられたシステム。だが、書店で売れなくなっているいまでは、出版社も様々なチャネルを模索している。そのひとつが図書館である。TRCも返品は1割を目指しているので、通常流通のように大きな返品が出ないのも出版社にとってメリットであるはず。ベルやストックブックス(注文対応用に新座ブックナリー倉庫に一定期間常備される本=図書館からの注文が多い図書で在庫ヒット率は95%)に書籍情報を掲載するために、事前に充実した内容の企画書を提出してくださる出版社も多い」
 ――返品リスクが少ないのであれば、出版社の営業担当者が書店に行くように、もっと図書館を営業すれば、出版社と図書館の相互理解は深まるのではないか。
 「ご存知のとおり、児童書ではすでに出版社が組織する巡回部隊があり、積極的に全国の公共・学校図書館を回られている。また専門書で言えば、例えば原書房の成瀬雅人社長は自ら全国で400館以上の図書館を回られ、各図書館の蔵書をチェックして、自社商品で欠本しているものなどをリスト化して注文を取っている。その成瀬社長に刺激され、図書館を回って注文を取り始めた版元さんもいると聞いた。また、柏書房の富澤凡子社長に『図書館に行ってみては』とアドバイスを受けた専門書版元さんは、図書館に赴かれた結果、『まさか自社の本がこれほど置いてあるとは思っていなかった。これからはもう少し図書館に目を向けたい』と仰っておられた。図書館では1館につき1点1冊の注文だが、バックリストが多い出版社であればそれが数十冊にもなるだろう。窓口のTRCとだけ対応するのではなく、エンドユーザーである図書館と直接話したい出版社が増えてきているように感じる。書店に比べれば、公共図書館は300億円くらいしかないマーケットではあるが、ひとつの市場と見る人が増えているようだ。TRCでも、取次と協力して春には児童書、秋には一般書をメインとしたブックフェアを、春は全国66会場、秋は全国11会場で開催しており、毎年多くの公共・学校図書館の担当者にご来場いただいている。一部の出版社の方にも商品説明のためにご来場いただいており、ユーザーに対し直接自社の本が優れている点を説明できるということで意義を感じてくださっているようだ。これまでいらしたことのない出版社の方々にも、ぜひ一度会場に足をお運びいただきたい」
 ――出版社にビジネスパートナーとして、より認知してもらうためにも資料費減少の問題をどうにかすべきでは。
 「確かに、出版業界を挙げての『図書予算を増やすためのロビー活動』は必要だと思う。出版社でも、そう考えておられる方々がいる。私たちも、公益法人である図書館振興財団を通じて応援していきたい。実際、総務省では、安倍政権の方針である地方創生のために色々と考えておられるようで、よいアイデアを提供できれば図書館に予算をつけてくださるとも言われている。ただ、図書館の管轄は文部科学省なので、こちらにもあわせて働きかけていきたい。出版界の方々には、図書館の資料費を増やすことが出版市場を広げていくと考えていただきたい。出版業界がまとまれば、新しい道が見えてくるはず」
 ――地方の書店が疲弊している。様々な問題があるが、TRCは地方の書店と衝突しているところ、うまく連携しているところと分かれている。
 「地元の書店組合と連携させていただいている地域では、共存共栄していると思う。それ以外のところについては、事実と異なることを言われている部分もある。ただ、TRCが指定管理者として運営する図書館では、地元の書店から納品してもらっていても、図書館が希望する雑誌すら満足に入ってこないケースが多々あった。私たちもできる限り地元の本屋から仕入れたいし、応援したい。だが、今の出版流通では非常に難しいと言わざるをえない。アマゾンも必要な商品を確保しているから売れるし、TRCでも図書館のために商品を確保しているから確実に図書館へ届けられる。だが、地方の書店では、お金があっても売りたい本を仕入れることができないことが問題だ。必要な商品を仕入れることもできないという商売は、他の業界では聞いたことがないし、書店の努力の範疇を超えているだろう。地方の書店が、必要なものを必要な数だけ揃えられる流通に変えていかないと、本屋は生き残れないのではないだろうか」
 ――納品業者としてだけでなく、地方の書店と図書館がコラボできることはないのか。例えば、図書館内に地元書店を誘致するとか。
 「集客規模や売り場面積、開館時間を考えても、図書館の規模では難しいのではないだろうか。365日24時間オープンしているならともかく、限られた時間内のみの営業で本当に書店経営が成り立つだろうか。私たちが指定管理者として運営している図書館で、レストランに入っていただくだけでも躊躇がある。実際に導入した長崎市立図書館では、地元の人気レストランに入っていただけたのでうまくいっているが、やはりそういう理由がある。単に図書館に売り場を設けただけで本が売れるのだろうか。地代や人件費などの経費を考えると、計算すれば赤字になる可能性が高いことは分かる。図書館に商業施設を誘致するような話は、耳ざわりはいいのだが、業界を知れば知るほど、難しいように思える。駅前にある書店ですら閉店してしまうのに、図書館だから成功するという保証はない。書店とのコラボで言えば、例えば、図書館で開催するイベントなどでコラボすることが考えられる。作家のイベントを図書館で開き、書店にも来ていただいて、会場で実際に作家の本を売ってもらう。また、図書館や書店でビブリオバトルを開催する際に、互いに応援・告知しあうなどの連携は大いにやっていきたい」
 ――埼玉・桶川の施設において、丸善の横に図書館が併設される。こういう取り組みはどうなのか。
 「桶川市では、元々図書館の入っているビルが老朽化したため、再開発を行い、書店を入れるという話が出た。もともとあった図書館ではTRCが以前から委託業務をおこなっており、今回新たに指定管理者の運営になったので、一緒にやりましょうという話になった。さらに今後、兵庫県明石市でも駅前の施設でジュンク堂書店とコラボすることになっている。このような事例は、それほど新しい展開でもない。図書館と書店は、利用者にとっては親和性が高いが、自治体の側が、同一フロア内に図書館と書店を併設することをよしとしないことが多い。それは、図書館が図書館以外の用途で敷地を使用する場合、目的外使用として別途自治体に地代を払う必要がある場合が多いためだ」
 ――書店とイベントでコラボレーションできるのであれば、出版社とも連携できることは多そうだ。
 「海老名市立中央図書館(神奈川県)で初めて、出版社の社長を招き、出版社が今どういう状況にあるか、図書館とはどういう関係にあるかなどを話していただいた。現在は改装のため閉館中の海老名市立中央図書館にかわり、江戸川区立西葛西図書館(東京都)で水平展開をしている。7月5日(日)には、あかね書房の岡本光晴社長にご講演をいただく予定だ。我々もこうした場をもっと広げていきたいし、出版社側でももっと広く図書館とコミュニケーションを取りたいと考えてくださっているようなので、図書館総合展などでそうした場を実現したい。私たちは出版社とのコラボレーションを通じて、出版社が図書館についての情報を持っていないということに気づかされた。逆に図書館側も、出版社のことをほとんど知らないように思う。いつか、TRCと出版社とでともに図書館を巡回するツアーを企画したいとも思っている。アメリカの図書館では、出版社とのつながりがとても深く、ごく普通に図書館でイベントを実施している。日本では、千代田区立日比谷図書文化館(東京都)などでは河出書房新社や平凡社の方が講演をしてくださっているが、そのほかではあまり出版社に目を向けたイベントは開催されてこなかった。出版社は『自分たち1社だけの会でもいいのか』などと図書館の公平性を気にしてくださっているが、まったく構わない。図書館は常にウェルカムなので、書籍を売るための作家サイン会やトークイベントをどんどん提案していただきたい。そしてゆくゆくは、図書館と出版社が互いに意見が言える場をどんどん設けていきたい」

▼谷一文子(たにいち・あやこ)氏=1958年12月岡山県生まれ。81年3月上智大学文学部心理学科卒業(司書資格取得)、81年4月財団法人倉敷中央病院精神科臨床心理士、85年4月岡山市立中央図書館司書。91年4月図書館流通センター入社、2004年4月図書館サポート事業部長、04年6月TRCサポートアンドサービス代表取締役、06年6月図書館流通センター代表取締役社長、13年4月図書館流通センター代表取締役会長。14年4月会長職のまま、神奈川県海老名市立中央図書館館長に就任、15年10月会長職のまま、神奈川県海老名市立中央図書館統括館長に就任予定。







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