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評者◆小嵐九八郎
タイトルがずばり過ぎる
歌集 暗黒世紀
坂口弘
No.3213 ・ 2015年07月04日




■作家・歌人 『暗黒世紀』という歌集が出て、手に取った。タイトルがずばり過ぎて、やや滅入る。
 もっとも、何億年の地球史、二百万年から二百五十万年の類人猿から独り立ちした人類史の中で、産業革命以来、大自然を食い尽くし、ガスを振り撒き、異常に地球を暖めていく歴史は二百五十年ぐらいのこの頃のこと、確かに暗くなる世紀である。それに個人的には、産業革命に先立つデカルトの「コギト・エルゴ・スム」の人間の理性万才は、理性が解決できぬものがない高慢さとなり、神的なものを畏れない暗黒世紀へと到達したようにも思える。「イスラム国」が進展し屈しない姿にも、人類史が忘れ捨てた何かを感じる。
 この『暗黒世紀』は角川学芸出版から出たばっかり。著者は坂口弘さんである。
 坂口弘? と、中年や若者は問うかも知れないので記すと、新左翼運動、全共闘運動のピークは一九六八年の新宿“騒乱罪”の闘い、翌年の東大安田講堂を巡る攻防と当方は考えるが、この限界を一九七二年、銃撃戦を含めやり抜き突破しようとした連合赤軍というグループがいて、浅間山荘で機動隊とぶつかった。人質に民間人をとったのはなお痛みではあるが、人人を中継のテレビから離さなかった。そして、それがその前の内部処刑の累累たる屍の上にできたとやがて分かり、新左翼運動が沈みかけていく。この一連の動きの強力なる一人が坂口弘さんで、一九七七年には日本赤軍がハイ・ジャック闘争をして釈放を求めたが拒否した。「自由か、責任をとっての死刑か」のぎりぎりの選択を迫られる中での世紀の決断といえる。かつて拘置所で《わが胸にリンチに死にし友らいて雪折れの枝叫び居るなり》(『坂口弘歌稿』朝日新聞社)の凄い歌を作り、今、死刑確定囚である。
 今度の歌集では《〈ヒエーッ〉てふ声〈ドドド!〉と後ずさる音きこえ執行告知をされぬと悟る》の同じ舎房の人の最期のリアリズム、《あらざるにわが子の名前を考へをり死刑囚にして独り身のわれが》のせつなさが胸に迫った。







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