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評者◆稲賀繁美
中国の松本清張ブームに日中文化交流の将来を探る――王成教授講演「越境する「大衆文学」の力:なぜ中国で松本清張が流行るのか」から(上)
No.3213 ・ 2015年07月04日
■政治の世界では、日中関係は、国交正常化以来、最悪の季節を迎えている。だが中国民衆の日本観や、日本文学への愛好は、政治外交の冷え込みとは好対照といってよい。明治大学の張競さんが「日本経済新聞」への連載をまとめた『詩文往還――戦後作家の中国体験』(日本経済新聞出版社、2014年)は、武田泰淳や堀田善衞から有吉佐和子、山崎豊子に至る現代日本作家の中国体験の一斑を見事に活写し、両国文学者の深い交流を播いた。紙面の制約もあって『詩文往還』からは漏れた作家のひとりには、中国でも大人気を誇る松本清張がある。先日、清華大学の王成さんが六本木の国際文化会館に招かれ、この日本の大作家を論じた。
『点と線』といえば時刻表を利用した東京駅でのアリバイ工作で有名だが、その中国語訳は1979年に出版され、「改革開放」時代の中国で最初の「推理小説」となった。群衆出版社の版本の裏面には「内部発行」とある。実はこれ、警察や諜報機関において「参考読物」つまりは「教科書」として使われた証拠。2007年の新版の帯では「世界十大推理小説」のひとつと認定され、『点与線』は「推理大師松本清張」の「最高傑作」と評される。2009年版で清張は「東野圭吾、宮部美雪(原文ママ)、京極夏彦、島田荘司、西村京太郎」らにとっての「一代宗師」の地位を獲得する。清張越しにこれら現代日本作家の中国での人気も彷彿とする。 西村寿行原作の『君よ憤怒の河を渉れ』は1976年、佐藤純彌監督により映画化されたが、これは1979年、文化大革命後中国で公開された最初の外国映画となり、主演の高倉健が大人気を博したことは常識だろう。それにつづき1980年に『砂器』として公開されたのが、野村芳太郎監督の『砂の器』(1974)。作曲家・和賀英良を加藤剛、撲殺された元巡査、三木謙一を緒方拳が演じた。当時若い世代が愛読した『大衆電影』(出版部数969万部といわれた)の読者投書欄では「いかに『砂器』を看るか」の議論が沸騰し、『中国青年』では「人生論争」とよばれる議論が巻き起こった。1985年には曹修林による『砂器』初翻訳が登場し、40にのぼる出版社が競合する「清張ミステリー」出版ブームが到来した。90年代末には金中校閲により群衆出版社より「世界偵探 険名作文庫」に多くの清張新訳が席巻する。 ――つづく |
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