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評者◆Wings to fly
海風が吹いてくる、爽やかな人生応援歌
おまめごとの島
中澤日菜子
No.3212 ・ 2015年06月27日




選評:テンポよくあらすじを追っていく文章からは、こういったレビューを書き慣れていることがよくわかります。短い分量ながら要所要所は押さえられていて、文中の言葉を借りるならば、「ニクイ!」。
次選レビュアー:たけぞう〈『太宰治の辞書』(新潮社)〉、風竜胆〈『ラットランナーズ』(創元SF文庫)〉


 壊れた親子の絆、生きがいの喪失、移住者の孤独。こういうテーマって、書きようによってはシリアスで重たい作品になる。しかしこの、時に爆笑を誘うような可笑しさはなんだろう。デビュー作『お父さんと伊藤さん』を読んだ時にも感じたけれど、中澤日菜子さんのユーモアのセンスは私のツボを直撃だ。
 大きなマスクで顔を隠し、デイパックひとつ抱えた怪しげな男が島へ降り立った。彼は顔を見られるのを極度に警戒している。いやいや犯罪者ではない。この男、無駄にイケメン過ぎるのである。内気な性格なため、容姿端麗さが弱点に直結してしまったのである。パニック症候群という心の病を抱えるほどに。秋彦は親友の経営するホテルで働くために小豆島へやってきた。
 不幸な恋に破れ、家庭を築くことを諦めて島へ逃げてきた言問子。四人の子の母親で一見幸せそうな家庭を築いたのに、夫が嫌で逃げ出したい真奈美。イケメン秋彦の登場により、職場のホテルで関わりを持つふたりの女性の日常には波風が立ち始める。そんな折、今度は秋彦の娘も登場。気高いほどの美少女で、明るく礼儀正しく頭脳明晰で、父親が大嫌い。離婚した妻が海外へ仕事に出かけている間だけ、強制的に父・秋彦のもとへ送り込まれたのだ。
 気弱な父と素直になれない娘、今の境遇に虚しさを感じる二人の女性が、周囲の思いやりに支えられて人生を再生してゆく。美しい瀬戸内海の風景と温かな人情、ユーモラスな会話と軽妙洒脱なウイット。瀬戸内の島々に点在する山本三兄弟とか、写メのメルマガばばあとか、脇役たちの使い方がニクイ!
 家族って、本当は脆い集合体なのかもしれない。一緒に過ごした日の小さな思い出を積み重ね、その記憶を頼りにつながっているだけの。「まめごと」は「ままごと」じゃなくて、真摯に生きるってこと。家族を大切にしたければ、問題が起きた時には逃げずに向き合い、時間をかけて関係を築こうよ。そうすればいつか、小豆島の棚田のような、美しく堅固な連なりが出来上がるだろう。
 読後感も爽やかだ。







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