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評者◆添田馨
二様の原理――天皇の思いを踏みにじる政権与党
No.3211 ・ 2015年06月20日




■わが国の最高法規たる憲法、特にその第九条の精神が、あろうことか最もそれを尊重し擁護すべき立場にあるはずの時の政権によって、いままさに踏みにじられようとしている。こうした動きに対し、まったく好対称な行動を取り続けているのが、現在の天皇陛下であるように私には見える。戦後70年にあたる今年、わが国はまちがいなく〝天皇〟と〝総理〟とがそれぞれに体現する二様の原理のあいだに引き裂かれてある。
 「ここパラオの地において、私どもは先の戦争で亡くなったすべての人々を追悼し、その遺族の歩んできた苦難の道をしのびたいと思います」(パラオ国主催晩餐会における天皇陛下のご答辞)――今年四月のパラオ訪問時の天皇の言葉である。注目したいのは、日本軍のみならず敵国の兵士や現地住民の死者たちに対しても、天皇はその死を悼むために頭を垂れているその姿である。これは、戦争の死者のあいだからあらゆる差別を取り払い、戦禍による落命という共通した悲劇の普遍性に向け、すべからく哀悼の意を注いでいることを物語っている。
 私のなかでその時、憲法第一条に「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と記されてある事実が、二重の歴史的意味を伴って蘇ってきた。
 つねづね私は現行憲法が拠って立つ権威は、あの世界戦争による膨大な死者たちの存在から来ていると感じていた。いまそして日本国憲法が持つそうした文明史的意味を公的にかつ全的に背負っているのは、まぎれもなく天皇陛下ご自身であるとの思いにたち至ったのである。
 「国権の発動たる戦争」を禁じた憲法の精神の生きた体現者がまさに天皇ご自身だとするなら、明らかに違憲立法である一連の「戦争法案」を通そうとしている政権与党は、その思いを踏みにじることを通して、わが国の最もパブリックな根幹部分を殺す者たちなのである。







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