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評者◆トミヤマユキコ
西山繭子のブログが唯一無二である理由
No.3210 ・ 2015年06月13日
▲【にしやま・まゆこ】女優・作家。1978年、東京都出身。ドラマ・映画への出演の傍ら、作家としても活動。『ワクちん』(PHP研究所)、『しょーとほーぷ』(マガジンハウス)などを出版しているほか、映画『バンクーバーの朝日』の公式ノベライズ本も手がけた。ファンの間では、サッカーのダビド・シルバ選手の熱狂的なファンとしても知られる。
西山繭子は女優です。広末涼子や戸田恵梨香、有村架純などを擁する芸能事務所「フラーム」に所属しており、キャリアはもうすぐ15年に手が届こうとしています。また、彼女は作家でもあります。近著『バンクーバーの朝日』のノベライズ本は公称10万部を突破しました。美人で文章も書ける。つまり才色兼備です。ついでに言えば、父親が伊集院静です。究極の勝ち組と言われても仕方がないスペックです。天は二物を与えるんだな、ずるいぞ。 そうしたイメージを持ったままで構いませんので、ひとまず彼女のブログ「Untrue Life」(http://ameblo.jp/mayuko‐0121)を覗いてみてください。アメーバブログを利用しており、もちろんオフィシャルブロガーの認定を受けています。トップ画像はアンニュイビューティーな西山さん。ザ・芸能人という感じです。 では、試しに2015年5月10日に更新された「母の日」というブログを読んでみましょうか。「お母さん、本当にありがとう♡ たくさん親孝行したいので元気でいて下さいね」……母子家庭の苦労などを記しつつ、最後はお母さんへの惜しみない愛情と感謝の念で締めくくられた素敵な文章です。そしてブログの最後には、母と娘の2ショット写真。が、お母さんの顔、ウンコキャラのスタンプで隠されているんですけど。なんでこうなった。 読者の反応を見てみましょう。「お母さんの顔のスタンプ…」と戸惑い気味にツッコミを入れている人がいます。さらに「お母さん、苦労なさったんですね。苦労して育てた娘がこれって、なんの罰ゲームですかね」と書く人もいれば、「前に伊集院静さんの本に「女、子どもは守らなきゃいけない」って書いてありましたけど、あなたたちはあっさり捨てられたんですね(笑)」と西山家の家庭の事情に切り込む人までいる。みんなちょっと辛辣すぎるんじゃないの。というか、殺伐としすぎていて、なんか怖い。事務所によっては「不適切」だとして削除するレベルでは……。 「なんて酷いことを言うんだ! 説教のひとつもしてやらんといかんな!」と思って、なにかコメントを書き込もうと思った正義感の強いあなたは、あることに気がつくハズです。「あれ? 書き込めないんですけど?」……そう、このブログは、一般の閲覧者が書き込めないように設定されているのです。 もっと分かりやすく言いますね。このブログは、本文もコメントも西山さん本人が書いているのです。騙されたと思う方もいるでしょうけど、ブログのタイトルが「Untrue」ですからね。はっきり「真実ではないです」と銘打ってますから。騙されたあなたが悪いとか、そういうことではありません。うっかり騙されてしまうようなブログを書いた西山さんのお手柄なのです。 本文もコメント欄も西山さんの執筆。内容は虚実入り交じったもの。そして読んでいるこっちが心配になるぐらいヒリついている西山批判(ときどき伊集院批判)。女優だけど引きこもり、女優だけど汚部屋、女優だけど非モテ。そういう欠点を見せることのできる女優はいますが、ここまで徹底した自己批判を「創作ブログ」というなんだか面倒くさい手法で表現してみせる女優を、わたしはほかに知りません。これは希有なことです。そしておそらく、彼女以外にこんなことができる女優はいない。ていうかムリ。あと、補足しておくと、西山さんは親のコネなしで女優も作家もやっています。自力でこの面白さに辿り着いているところが、彼女の強み。親に負うところが少ないからこそ、親の七光りをネタにできるというワケです。 「素のわたし」をファンに見せるのが一般的な女優のブログだとすれば、西山ブログは、そんなわたしたちの思い込みを逆手にとって、読者をフィクションの世界に遊ぶよう仕向けてきます。「素のわたしなんて知ってどうするの? それよりもっと面白いことがあるよ?」という問いかけに応答できるかできないかは、読者にかかっている。少なくともわたしは、高くて手が出せない化粧品とか、店の名前を伏せたまま旨そうな料理を自慢される女優ブログより百倍面白いと思って読んでいます。そして、こんな奇っ怪なブログに手を出してしまった西山さんが、この先どういう小説を書くのかがすごく気になる。というわけで西山さん、今後の小説家活動に期待していいですか? いいですよね! |
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