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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家・尾かな子の巻28
No.3209 ・ 2015年06月06日




「識者」による選挙総括①

 前々回と前回で尾辻選対の主要メンバー3人による総括を紙上再現。それぞれ視点は異なるものの、「惨敗はしたが歴史的には大きな意義があった」というのが通奏低音であった。
 しかし、しばしば選対の総括は内輪ゆえに近視眼的で身びいきになるおそれなしとはしない。そこで、少しはなれたところから尾辻選挙を見守った「識者」たちの総括をこれに重ねてみたい。そうすることで、尾辻選挙の歴史的意味をより深めたいと思う。
 まず1人は、作家で女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を立ち上げ運営している北原みのりである。
 そもそも北原と尾辻との“なれそめ”は、参院選挙の1年ほど前の2006年9月、札幌でレインボーマーチが開催され、その一環として企画された両者によるトークイベントであった(往時の主催者の案内文にはこう謳われていた。「レインボーマーチでしかできない、尾辻☆北原の組み合わせ!この超豪華ゲストの組み合わせは女子達必見です!」)。
 それが機縁で、北原は彼女のショップに「レズビアン、国会へ一撃!」のポスターを貼るなど側面支援をしていたが、尾辻の敗北が決まった3日後の2007年8月1日のブログに、「(尾辻の選挙ポスターを)今日、はがした。尾辻さん、お疲れさまです。尾辻さんを身近で支えていた人たち、お疲れさまです」ではじまる長文の「総括風コメント」を寄せた。これはひとりレズビアンのみならず、LGBTを超えた様々なマイノリティ運動にとってもいまなお示唆にとんでいるので、以下、一部を抜粋しながら紹介する。
 まず北原は、当時話題になった想田和弘の観察映画第一弾「選挙」(大学の同級生が川崎市議会の補欠選挙に自民党公認で出馬して当選するまでの一部始終を描いたドキュメンタリー)を引き合いに出して、いかに日本の選挙の実情が「政策など関係ない。誰が立候補しようが関係ない。『誰の代表』であるかが、大切だ」とした上で、尾辻も明確にセクシュアルマイノリティの代表という点で、外形的には似ていても非なるもの、日本の選挙の実態とは無縁かつ真逆であったと、こう指摘する。
 「『ウチはオジイチャンの代から自民党だから』。映画『選挙』の中でそう話す人がいた。思考停止とはこういうことで、『レズビアンだからレズビアンに入れる』というのは、やっぱりそれもある意味思考停止なのだろう。それが分かっているからこそ、『レズビアンを公表して国政に出た初めての人を応援したい』という思いと、『自分がレズビアンであること』の間を、行ったり来たりしながら選挙に行った人の迷いを、私は信頼できると思う。自民党は論外だけど、民主党はどうなのか。という思いを封じ込めて一票を入れた人。尾辻さんの政策に100%賛成できないけど、レズビアンの『可視化』に協力したい、と一票を入れた人。迷い抜いて、迷い抜いて、やっぱり尾辻さんには入れられなかった人。今回の選挙で、私は、色んな一票の話を聞いた」
 しかし結果は惨敗。その敗因について多くの人から「現実は厳しい」、すなわち「世間=マジョリティは厳しい。レズビアンは差別されている」との言われ方をされたが、北原は、そうは思わないと切り返す。
 「なぜなら、レズビアンであることを公表して戦った尾辻さんは、そもそも、マジョリティなんて相手にしていなかったと思うから。むしろ、潔いほど『レズビアン』『セクシュアルマイノリティ』の代表であることを訴え続けてきた。年金問題、憲法9条、安倍政権の失言問題。今回の選挙で多くの人が関心を持っている事柄を『利用』することなく、尾辻さんは誠実に、尾辻さんの立場でしか言えないことを大切に語り続けていた」
 その上で北原は、問題を「マイノリティvs世間の厳しい障壁」という一般論に「解消」するのではなく、事の本質の在処をついてみせる。
 「その尾辻さんが落選したということは、マイノリティが『代表』を選ぶことに対する、複雑な『現実』がここにある、ということなのだと思う。そういう意味で現実は厳しい。もっと数がたくさんいれば、レズビアンの代表なんて珍しくもなんともなければ、イヤなレズビアンもいれば、気持いいレズビアンもいれば、アホなレズビアンもいれば、清廉潔白なレズビアンもいれば、性欲のかたまりのようなレズビアンもいれば、超頭のいいレズビアンもいれば、心穏やかなレズビアンもいれば、鉄道オタクのレズビアンもいれば、ネコしか関心のないレズビアンもいれば、憲法9条を守り抜くレズビアンもいれば、自民党好きのレズビアンもいれば……。いろんなレズビアンがいて当たり前、というものすごく当たり前のことを気軽に受けとめられる世界であれば、複雑な『現実』など薄れてしまうものかもしれない」
 この北原の指摘は、「レズビアン」を「障碍者」「難病患者」「野宿者」など様々な社会的マイノリティに言い換えても通じる問題提起だろう。そして、それはあれから8年たった今も課題でありつづけている。
 北原はこんな自問をもってブログを結んでいる。
 「尾辻さんが、これからどのように戦っていくのか。そしてどのようにその戦いを、私はサポートできるのか。そして、いつか尾辻さんがまた『代表』として出て行く時に、今度こそ、『私たち』の側が、準備ができていれば。そんなことを思ったりする。その準備には、何が必要なのだろう」
(本文敬称略)
(つづく)







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