書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
動く寿司、動かない絵、の巻
No.3208 ・ 2015年05月30日




■藤田令伊『アート鑑賞、超入門!――7つの視点』(集英社新書、本体七二〇円)では、実践的なアート鑑賞術。絵を見るということは、どーいうことか。展示されてある絵の前に自分がいる。それも立ち止まっている。問題は、その絵の前にどれだけの時間立っているかだ。その時の展示会場の状況にもよるが、もうちょっと立ち止まって鑑賞していればよいのにと自分でも思うが、絵を見るというその見かたのクセというものがある。どうも私の場合は、せっかちグセであるようだ。別に急ぐ用事もないのに。時間に追われているような。一応は絵の前では立ち止まるが、それもスタスタと進行させながらの立ち止まりというべきか。だからといって絵を見ていないわけではなく、ちゃんと見ている。いや、見ているつもりの部類に属するというべきか。ついつい流れの中に身をゆだねるようにして鑑賞しているのである。風の如く通りぬけるなどというと絵の作者に大変失礼だろう。
 〈流された見方をしている時に怖いのは、ついつい「事実を先入観に合わせてしまう」ことです。(モナ・リザ)がほんとうに笑しいかどうかはわからないのに、「(モナ・リザ)は最高に美しい絵なのだ」とろくに検証せず短絡的に結論づけてしまうようなことをしていないでしょうか。世評に流されていると気づかぬうちにやってしまいがちです。また、頭の回転が速い人ほど、この落とし穴に陥ってしまう気がします。(略)立ち止まってていねいに検討することが批判的の糸口になります〉(本書より)
 自分が漫画家という肩書きのようなものを持っている悲劇とでもいおうか。目の前の作品(アート)に対して、すぐ「ウン、この絵は漫画的なセンスがあって面白いとか、アイデアがあるとか、ユーモアがある、とか」、すべて、漫画という世界に引きずり込んでしまう悪いクセがある。本来なら漫画などというイヤな言葉や世界をハイジョすべきものだろうが、私は強引にひっぱり込もうとしているのである。それによって私には名画であるかないかということになってしまう。漫画家というものの一番いけないのは、すぐ、この絵にはアイデアがあるとか、ないとか。困ったことを問題化してしまうのである。
 〈そもそも、私たちは「アート」を「見る」こと、つまり「鑑賞」について取り立てて意識したことはほとんどないのではないでしょうか。〉〈ある時、私は「アート」と「アートを見る」ことは違うと気がつき、「アートを見る」ことについて学びたいと思いました。〉(本書より)
 私にはアート鑑賞における立ち止まり術をしっかり身につけなければいけないと反省すべきだろう。回転寿司を食べながら思うことは、客が椅子に腰かけて、寿司がグルグルと目の前を動いているということである。寿司が動くのに、絵が動いてなぜ悪い!! なんて考えてしまう。絵の数だけ立ち止まるというのが、今の絵画鑑賞である。それは、絵が動かないから、こっちが、絵の前を動かざるをえないからか。そんな馬鹿な!! いい加減なことをいうなとお叱りをうけるかもしれないが世の中どーかわるかわからない。絵が私たちの前に立ち止まる時代がくるかもしれない。いや、くるわけがない。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約