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評者◆ベイベー関根
いま、時代劇マンガはこうなっている!のか!?(後編)
鼻紙写楽
一ノ関圭
No.3208 ・ 2015年05月30日




■そんなわけで前回の続きだが、内容は別に続いてないので、ご安心されたし!さあ、今回取り上げるのは、一ノ関圭『鼻紙写楽』だ!「ええっ、一ノ関圭! 復活したの!?」と思われた方、一見マンガ通なようでも、若干遅れておる。この作品、実は2002年から描き継がれていたのじゃ!
 一方で「誰それ?」という御仁には教えて進ぜよう、一ノ関圭は今まで受賞したのがふたりしかおらず、西岸良平、諸星大二郎、谷口ジロー、弘兼憲史ですら佳作どまりだったビッグコミック賞を堂々受賞してデビューした天才漫画家なのだ! こそっと付け加えると、東京藝大油絵科卒。
 まあ、要は超大型新人だったわけだが、ありあまる才能を編集部が(たぶん)使いきれず、誰もが才能を認めながらも大ヒットには恵まれぬまま、今回がなんと「四半世紀ぶりの新刊」だというんだから、どうなっておるのかという感じだけどね(ちなみに、もうひとりのビッグコミック賞受賞者、戸峰美太郎は完全にどこかへ消えてしまった!)。ともかく、『らんぷの下』『茶箱広重』の2冊はぜひ玩読してもらいてえ!
 江戸・明治ものの作品がほとんどの一ノ関、今回の『鼻紙写楽』もタイトルどおり江戸が舞台。芝居、浮世絵、歌舞伎の世界を股にかけ、猟奇事件、ツンデレ、謀略、バックステージ、さまざまな要素を盛り込んだ一大群像劇でございやす!「第一場 勝十郎」では、一時は芝居の世界を志しもした見習い同心と、田沼意知斬殺をめぐる陰謀が思わぬかたちで交叉し、「第二場 卯之吉」では、前場で事件に巻き込まれた、五代目市川団十郎のひと粒種、小海老こと徳蔵の成長と、大坂から錦絵の技法を学びにやってきた絵師、伊三次こと後の東洲斎写楽と小海老の姉ひわとの出会いが描かれ、「第三場 仲蔵」では、一代で大名跡となった名優中村仲蔵をめぐって、先のふたりがさらに大きな波に呑まれてゆき、片方はそれを泳ぎきり、片方は苦杯をなめる……。
 じっくりと資料を読み込むところから生まれる世界の厚み、暮らしの陰影、人情の機微。それにマンガのもつケレンが加わって、見事のひとこと。読者の方には、それぞれの人物がその後どうなったか、あるいは実際のところはどうだったのかなど、いろいろお調べいただくとさらにお楽しみが増えるでござろう!
 それにしても……この連作(一編一編独立して読めるようになってるのもスゴい)、本になってるのとはまた別の順番で執筆されてるんだよね。しかも、2002年に最初に発表された「牡丹芍薬」あらため「幕間 初鰹」の最終ページには、ここまで描いてきた筋のさらにその先を予言するひとことが! まさかそんなところまで最初から考えてたの!?しかも「第一幕 完」だと!怖え~!
 ともかく描き下ろし52ページを含む430ページ超で1800円とは、もったいないほどの激安価格、こいつぁ買うしかあるまいて!







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