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評者◆石本秀一(ジュンク堂書店ロフト名古屋店)
「王道漫画」を描くための「黄金の道」
荒木飛呂彦の漫画術
荒木飛呂彦
No.3208 ・ 2015年05月30日




■「ジョジョの奇妙な冒険」が週刊少年ジャンプ誌上に登場したのは1986年の年末。私自身をはじめとして当時の大学生にはジャンプを購読している人が少なくなかったが、仲間内で話をしてもこの作品が長期にわたって掲載を続けると予想するものは皆無と言ってよかった。面白くなかったわけではないのだが、あまりにも異色だったのである。そのころのジャンプの人気作といえば「ドラゴンボール」「北斗の拳」「キャプテン翼」「キン肉マン」「シティーハンター」「聖闘士星矢」などなど(こうして並べてみるとあらためて当時のジャンプはすごいなぁ、と思う)。そんな中にあって19世紀末のイギリスを舞台にした「ジョジョ」という作品はかなり浮いている印象があって、勝手ながら早期の打ち切りを心配しながら読んでいた。読者アンケートの人気順で決まると言われるジャンプ誌上での掲載順も常に後半で、始まったころは人気作品でなかったのは確かなのだ。そんな作品がほとんど連載を休むことなく描き続けられ、ずっと読んできた自分がアラフィフになっていることにあらためて驚いている。
 さて「ジョジョ」の作者である荒木飛呂彦がその創作の秘密を明かしたという『荒木飛呂彦の漫画術』が発売となった。漫画家を目指している人はもちろんのこと、「ジョジョラー」とも呼ばれる荒木漫画のファンならば、あの独特な作品がどのようにして生み出されているのかに興味を持ってこの本を手に取るのではないだろうか。
 ところが……である。いかにして最初のページをめくらせるかに焦点をあてた第一章から始まり、「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」という「基本四大構造」とそれを表現する絵の描き方について、実際の作品を例にあげながら解説していくのだが、荒木自身が冒頭で「本書は「王道漫画の描き方」について解説した本で」あると言う通り、意外なほどに「王道」で基本に忠実なのである。『荒木飛呂彦論』(加藤幹郎)のように荒木の作品のアートとしての部分に注目する見方もあるが(それはそれで間違いではない)、荒木の意識の上では少年誌で読者の心をつかみ、ページをめくらせ、連載を続けていくためにどうしたらいいのかということの方が大きな場所を占めているようなのである。
 まだなかなか認められなかった頃の荒木は『映画術』(ヒッチコック/トリュフォー)という本を、自分がやりたいことを見失わないための支えのひとつとしたと言う。彼が漫画家として過ごした30年以上の月日のなかで試行錯誤を繰り返しながらつかんだ「王道漫画」を描くための「黄金の道」を書き記した本書は、彼にとっての『映画術』がそうであったように、これから先、漫画家を目指す多くの人たちを支える「地図」となることであろう。そして荒木が願うように「この『漫画術』を土台にして、さらなる新しい漫画」が生まれてくるのかどうか、それはこれからのお楽しみだ。







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