書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆Kurara
蓮の花が咲く瞬間に何かが起こる!?
夏の朝
本田昌子著、木村彩子画
No.3208 ・ 2015年05月30日




本が好き コラボ企画

選評:軽いながらもしっかりした文章です。物語のストーリーを興味深くまとめ、最後の三段落を用いてもう一言付け加えているのがいいと思います。「想い」を放つ蓮の花、私も見てみたい……。
次選レビュアー:はるほん〈『博士と狂人』(早川書房)〉、風竜胆〈『怨霊とは何か』(中央公論新社)〉
書評でつながるWeb上の読書コミュニティです。本の趣味が合う人や、思いもよらない素敵な本と出会えます。書評を書くとポイントが貯まり話題の本のプレゼントに応募できます。


■蓮はお墓参りの時にお寺の池でよく見ているけれど、蓮の花って見たことがあったかな~。確かに知っているけど、肉眼で見たかと言われると自信がない。で、この本に出てくる不思議な蓮の花に誘われて調べてみたら、「蓮の花」って4日間しか咲かないのですってね。しかも、花の最適な観賞時間は、朝7時~9時頃までなんだそう。午後には見られないのですねぇ。だからこの物語の主人公も早起きして、蓮の花が咲くところを観察していたのだ。
 主人公・莉子は中学2年生。祖父の法事で母の実家へやって来ます。住む人が居なくなってしまった家は、間もなく取り壊される予定です。なので、法事が終わると亡くなった母の姉妹が家の片づけをすることになっています。莉子はおばさんの手伝いということで、そのまま残り、数日間を過ごします。そこで体験する不思議なこととは……。
 きっかけは法事に来ていた小夜子おばさんの話。蓮の花のふっくらしたつぼみの中には「想い」が詰まっているという。その想いがつぼみに溜まって、開花とともに再び空へ放たれる。花が咲くとき「ぽん」という音を鳴らしながら何度も繰り返されると。想いを受け取ってくれる人が現れるまで……。莉子は本当なのかさっそく早朝から蓮の観察をします。そして驚いたことに、蓮の花の香りを嗅ぐたびに、過去の時代にタイムスリップします。
 彼女が目にするのは、若き日の母親の家族。会ったことのないおばあちゃん。今、この家で片づけを一緒にしているおばさんたち。そして亡くなったおじいちゃん、お母さん。最初はおじいちゃんとの会話が意味不明で戸惑うのだが、やがて状況が解って来ると、自分も母の姉妹のように楽しい時を一緒に過ごすことになる。
 この話のさらに面白いところは、数回同じ現象でタイムスリップするのですが、数を追うごとに、さらに過去へ過去へと遡る。しまいには、おじいちゃんの少年時代へまで……。莉子は現実に戻って来ては答え合わせをするように、過去で見て来た風景や出来事をおばさんに話し、少しずつ母の家族のことを知って行く。母親たちの娘時代の生活の中に自分が入り込むことへの戸惑い、知りたいような、複雑なような……。でも知りたいことも山ほど出てくる。
 ……というのが大まかな筋なのですが、亡くなった身近な人たちときちんとお別れする、思い出の詰まった家とお別れするということは、確かに存在したという形跡を辿りながら死者の想いを感じ取り、気持ちを少しずつ静めて行く。生きている者にとっても死者にとっても、このような時間は大切なんだなーと改めて思う。蓮の花はそんな互いの「想い」を放っては、人々に届けているのかもしれない。
 たまたま図書館の児童書のコーナーで目にとまった作品でした。本田さんははじめて読む作家さんですが、とても読みやすく、スーッと物語の世界へ引き込んでくれる心地よい文章が魅力的です。ちっちゃな切なさと、ほんのりしたぬくもりが残るような読後感。他作品も読んでみたいと思います。
 ところで、蓮の実って美味しいのでしょうか? 蓮の実ご飯、食べたことないなぁ……。挿絵も素敵でした。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約