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評者◆小嵐九八郎
肉体からの哲学の凄み
重力との対話――記憶の海辺から山海塾の舞踏へ
天児牛大
No.3208 ・ 2015年05月30日




■私事で恐縮だが、高校時代の一級上の我がかみさんは当方のヒモ暮らしを二十年ほど成立させてくれ、途上でかなり重い鬱病となり、次は俺が食べさせる役割をして、彼女は六十ぐらいの時からボランティア精神と僅かの賃金で老人へ、いや、老人と一緒に“ゆらゆら体操”を教え、共に楽しんでいる。この体操は、野口三千三さんの「ぎりぎり、ごりごりっと体操をしたり、鍛えたりしない。人の持つ本来の力に任せ、ゆっくり、ゆったり、身体をほぐす」旨らしいのに由来しているという。
 そのかみさんは、やはり野口三千三さんとも繋がりのある舞踏に熱い関心があり、とりわけ『山海塾』という天児牛大氏が主宰するそれを観たり、そのビデオの『卯熱』(山海塾とiO‐FACTORYの製作)を俺に「ヨーロッパ主流のバレエは重力に逆らって飛び跳ねるでしょう? この天児さんのは地球の芯に向けた重力との優しい会話なの。あんたのかつてのゲバ棒や鉄パイプの酷使と似てて似てないの。勉強しなさい」と薦めてうるさかった。
 一九八七年撮影と思われ、山海塾がフランスを軸にしたヨーロッパ公演をした後で、やっと日本でも注目され始めたその『卯熱』は、大谷石の採掘跡の石切場の舞台で、なるほど確かに、バレエもダンスも歌舞伎も演劇も苦手な俺に「沈黙と、生死の境をのたうつ動き」、「西欧文化的な生卵の直立は、コロンブスのようにぶち壊して後のできごとではなく、卵もまた地球の芯に向かう重力に従い、人がやさしく、ていねいにすれば立つ」という不思議にして思えば当たり前のことを教えた。身体を巡る自律性と他律性の謎をも突きつけた。
 その天児牛大氏が、この三月『重力との対話――記憶の海辺から山海塾の舞踏へ』(岩波書店)を出した。とかく、既成の宗教、思想、マスコミのよこす世界からものを考えがちな俺、いや、友人諸氏にとっても、身体論をきりり大地にして「生、死、時間、自然」を提起している。我我が、ぽっかり見失った肉体からの哲学の凄みがある。







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