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評者◆添田馨
この詩画集は“泣いている”
金色の翼
なかにし礼絵本詩集
No.3206 ・ 2015年05月09日




■なかにし礼の絵本詩集『金色の翼』(響文社、2014年)は、一見して瀟洒と形容するのが相応しい絵本仕立ての詩画集だ。全頁にわたって、なかにし礼の語りかけるような詩文と宇野亜喜良の個性的なイラストが目一杯に躍っている。これだけでもなかなか異色の組み合わせなのに、本の中身をよくよく繙くと、そうした最初のイメージとは真逆の話の展開に突き当たる。私にはむしろそのことの衝撃のほうが強烈だった。というのも、この詩画集は、全身で“泣いて”いるからだ。
 「2014年7月1日火曜日/集団的自衛権が閣議決定された//この日 日本の誇るべき//たった一つの宝物/平和憲法は粉砕された」(「平和の申し子たちへ! 泣きながら抵抗を始めよう」より)――この冒頭部分からも明らかなように、これは作詩家・作家として広く知られるなかにし氏自身の鮮烈な政治的アピールを盛り込んだ、怒りと失望と抗議の書物なのである。
 だが同時に私は、この本がいま世の中に生まれでたことの背後に、彼の隠れた宿命の足音のような響きが、遠く聞こえてくる気がしたのである。それこそ著者なかにし礼の、いわば存在そのものが放つ言葉にならない言葉、その沈黙が宿す果敢な叫び声に他ならないのではないだろうか。
 その時ふと、私はなかにし氏の出自のことを思わずにはいられなかった。彼は生まれたのも育ったのも旧満州の牡丹江という町だ。そして、ソ連軍の侵攻とともにその故郷を追われ、命からがら日本本土にまで辿りついた経緯がある。実はなかにし氏の詩を、存在のもっとも深いところで支えているのは、いわばこの自身が“難民”だった時分の記憶なのではないか。平和憲法は、彼の生い立ちに刻印されたこの難民性を、この世で唯一補償しえた天啓にも近い何かだったのではないか。そうだからこそ、憲法の精神が無残に踏みにじられようとしている今、なかにし礼という一人の表現者の全人格が、宿命的に時代と抗うように声ならざる声を発したように思えてならないのである。








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