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評者◆第2回 鴻巣市立鴻巣中央図書館・小野寺勝郎館長
子どもたちに飛行機を見せたいんですよ――調べる学習コンクールを起爆剤に、来てもらえる図書館づくりに奔走。アイデアマンとして数々のイベントで成果を挙げてきた
No.3205 ・ 2015年05月02日




■大手小売業に長年在籍し、第2の人生として図書館員の道を選んだ、鴻巣市立鴻巣中央図書館の小野寺勝郎館長(62歳)。図書館員歴は6年半だが、小売業での33年間の経験を活かした自治体との折衝に加え、アイデアマンとしても多数の図書館イベントを企画し、成果を挙げてきた。鴻巣市長の快諾のもとネスレと提携して、同図書館がコーヒーを有料提供するサービスも話題となった。貸出し一辺倒の図書館から脱却し、「どなたにも、来てもらって、使える図書館」を目指す小野寺館長に話を聞いた。

■外に発信を意識 待ちの姿勢ではダメ
 ――大手小売業を55歳で退職して、2008年秋に図書館流通センター(TRC)に入社。09年4月から東京・新宿区立中町図書館の館長として5年間勤務し、14年4月から鴻巣市立鴻巣中央図書館長兼(市内3館を統括する)ゼネラルマネージャーに着任した。この間、どういう方針で図書館運営にあたってきたか。
 「私は、理想の図書館像を明確に描いているわけではない。ただ、年度計画・年度予算の立案やイベントの企画・運営などは、小売業でも同じような仕事に取り組んできたので大いに役立っている。小売店業界の競争はシビアで、同じ商品なら競合店より1円でも安くないと、お客様に来てもらえない。一方、図書館の場合、きれいで蔵書が多く、IT設備が揃っているという『待ちの姿勢』だけで、利用者が来てくれるだろうか? それこそ無料貸本屋と言われてしまう。そうではなく、『図書館に新たな興味を抱き、来館して使ってみたくなる』仕掛けを、常に外に向けて発信し続けることが重要だと考えている」
 ――新宿区立中町図書館では具体的にどのようなことを。
 「09年4月からTRCが中町も含めて新宿区の2館の指定管理を受託した。私が中町図書館の館長に就任した際の自治体への約束は、①図書館利用数値(来館者数や貸出点数など)を伸ばすこと、②新しい事業を実施すること――だった。そこで提案した『新しい事業』の一つが『図書館を使った調べる学習コンクール』(調べコン)の推進。まずは図書館の近隣の小中学校を訪問して、調べコンや図書館での子ども向けイベントについて提案した。『夏休みの自由研究として調べコンを取り入れてみてはどうか。こちらできちんとサポートする』と先生には説明した。一方、子どもたちには、東京理科大学大学院生や国立科学博物館の博士、JAXAの教授などを講師に招いて、算数・数学や昆虫や宇宙など様々なテーマで体験授業を開催した。親子で参加している場合は、親御さんに『夏休みの自由研究に悩んでいるなら、調べコンに取り組んでは? 図書館員がお手伝いしますよ』と話して回った。つまり地域の学習支援事業として取り組んだのだ。もちろん、イベント開催時には図書館にある関連資料を展示して貸出促進することも忘れてはいない」

■「調べる学習」柱に 子どもの利用を促進
 ――調べコンを柱に地域の子どもたちの利用を促進してきた成果は。
 「学校訪問時の初期、教師の皆さんの意識は『また仕事が増えるのか、困ったなぁ』というイメージが確かにあったので、先生たちにいかに理解してもらうかに心を砕いた。すると、2年目あたりから認めてもらえるようになってきた。学校によっては授業の枠をいただいて(いわゆる出前授業)、子どもたち向けに調べ学習のガイダンスを開催する機会をもらえた。TRCを支援してくださる教育関係者の助力もあり、中町図書館だけでみると初年度の応募が112作品だったのが、5年目には898作品にものぼった。新宿区全体では当初約300作品だったものが、5年目には(TRC4館で)3500作品以上も集まった。その頃には新宿区の小中学校39校のほぼ全校が調べコンを認識していた」
 ――中町図書館の利用状況はどう変わったか。
 「初年度と5年目(13年度)の推移を次の3項目で比較してみると、①入館者数は105・5%、②貸出点数は112・4%、③調べコン応募作品数は112点が898点(701・8%増)に増えている」

■実績重ねて人を動かす
 ――ほかにも様々なイベントを企画し、きっかけづくりに奔走したと聞いたが。
 「落語家の寄席や近隣に住む時代小説家の講演、プロの街頭紙芝居、英語絵本の読み聞かせ、など大人向けにも子ども向けにも多種のイベントを実施した。日本航空や全日空の整備工場見学にも3年連続で子どもたちを連れていった。全日空では『図書館からの団体申し込みは初めてです』と言われた。一方、新宿区の担当者から『なぜ飛行場なのか? 新宿区内にも見学に適した場所があるのではないか』と問われたので、『子どもたちに飛行機を見せたいんですよ。新宿区にないものを』と答えた。その目的のすべては図書館に興味をもってもらうため。調べるきっかけを与えてくれる図書館を再認識してもらえれば、新たに関連書にもアクセスするだろうし、調べコンにも参加してもらえるかもしれない。調べコンを一つのコアとして据えると、イベントも図書館利用もすべてが循環してくる。ただ『参加してください』では人は動かない。何回も、また色々とそのための仕掛けを施して実績を積み重ねていくことが必要だ」
 ――鴻巣図書館ではどのような取り組みを。
 「初年度の14年から調べコンに取り組んでいる。作品は210点も集まった。15年度は図書館振興財団の事業助成金も活用して、参加校・人数・作品を増やしていきたい。初年度のイベントは、音楽の無料配信サービス『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』の導入、デキシーランドジャズコンサート開催、図書館ツアーやボランティアスキルアップ講座『修理編』、などに取り組んだ。この『修理』というのは本の修理。そしてこの講座はただの講座ではなく、一般利用者から既存のボランティア・図書館スタッフまで参加して頂いた。成果として一般利用者の中から新たに4人の方が、本の修理をする図書館ボランティアに登録してくれた。もちろんスタッフの育成研修も兼ねており、一石三鳥の仕掛けだった」

■日本人の読書量12年から下降線 出版界と方策を
 ――図書館はまさしくワンダーランド、と言えるほど数々のイベントや事業提案をこなしてきたが、一部の出版社は図書館の貸出や積極的なサービスに対して疑問を投げかけている。
 「ある県立図書館の館長の講演会を聞く機会があった。『全国の公共図書館の貸出冊数と書店の実販売冊数を合算した総合計数値が、12年から下降線に転じた。これは歴史上初めてのこと。これにどう対応していくかがこれからの課題だ』と話していた。要は日本人全体の読書量が衰退しつつある。これが世の趨勢なのである。私がかつていた小売業界も栄枯盛衰。ファンドや外資のみならず競争相手が親会社にもなった。またパイが縮小する業界ではお互いに喰い合って疲弊して共倒れする例や、大同団結やリストラでコスト削減を図る例は枚挙にいとまがない。どんな業界も昔のままでは存在できない時代である。切磋琢磨して、出版界ともども生き残る方策を今こそ考えていくべき時であろう。図書館員の一つの打開策として、私はこの『調べる学習コンクール』に一筋の光を感じている」







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