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評者◆かもめ通信
翻訳の魅力に取り憑かれる
雨ときどき、編集者
近江泉美
No.3205 ・ 2015年05月02日




■大手出版社に勤務する中堅文芸編集者・真壁は、共に新人時代からコンビを組んで切磋琢磨してやってきた売れっ子作家・樫木の死から一年経った今も立ち直れずにいた。
 そんなある日真壁は、樫木が子どもの頃別れたきりの日本語を全く解さないドイツ人の父に、自分の作品を届けて欲しいと願っていたことを知り、自伝的小説である代表作『君を包む雨』のドイツ語での翻訳出版を実現させようと決意する。
 だがそのとき彼は、日本語が超マイナー言語であるという認識もなければ、翻訳には単なる実務面だけでなく、実に様々な問題があることを全く理解していなかったのだった。
 辞書の編纂を手がける『舟を編む』、文芸編集部の若手編集者を描いた『クローバー・レイン』など、出版社勤務の編集者を主人公に据えた物語はこれまでにも沢山あったが、日本の小説を翻訳して海外に送りだそうという設定はなかなか新鮮だ。
 ドイツで1年間に出版される日本の文芸書の数は18点にすぎず、しかもその中には太宰や鴎外といった“現代文学”とは言い難い作品も複数含まれているといった、作中に盛り込まれている翻訳出版をめぐる情報も興味深い。
 しとしと、ざあざあ、さめざめと雨音だけでも沢山の表現がある日本語のニュアンスをいかにつたえるか、あえて言葉に出さないような想いをどうやってとどけるのか。
 直訳、意訳、超訳、「言葉」を捨て「意味」をとってもいいものか。
 日本語から外国語への翻訳の難しさを改めて考えさせられると同時に、日頃から大変お世話になっている外国語を日本語に訳す翻訳者の方々の苦労にも思いをはせる。
 熱い編集者も必要だが、作品を理解しこよなく愛する翻訳者がいなくては、翻訳小説を読むことは叶わないのだと改めて認識させられる1冊だった。

選評:非常に短い字数ながら、丁寧な紹介になっていると思います。この本の内容だけではなく、周辺情報なども盛り込むと、この本の存在を知らない読者に対しては、やはり親切ですよね。……というか、最後の段落は身にしみました。「雨ときどき」どころか、いつも大降り、書評紙編集者。とほほ。
次選レビュアー:kurara〈『読まされ図書室』(宝島社)〉、Wings to fly〈『古事記』(河出書房新社)〉
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