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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家 辻尾かな子の巻(26)
No.3204 ・ 2015年04月25日




■三里塚反対同盟代表の参院選出馬との類似性

 前号で記したように、尾辻かな子は2007年7月の参院選挙に挑んだが、予期せぬ惨敗を喫した。その敗因はなんだったのか? 負けはしたが成果はなんだったか。
 当時の主要選対メンバーに7年目の「総括」をしてもらった。
 参加者は、元ゲイ雑誌編集者の後藤純一、新宿2丁目振興会会長(当時)の福島光生、同性愛関連書籍を数多く出しているポット出版の社長の沢辺均の3人。場所は福島が経営するゲイバーである。
 ――まずは尾辻かな子の選挙にかかわる経緯から。
福島 生きている間は自分のようなゲイもふくめた性的マイノリティは“日蔭”のままだと思っていたけれど、尾辻が出てくれたので、ひょっとしたらひょっとするかもと期待がふくらんだ。(後藤)純ちゃんに声をかけられたのは、2丁目に事務所を開く2、3週間ほど前だったけど、結果はともかく、ほんとうに楽しい数か月だった。今でもその思いは変わってないわね。
後藤 僕が事務所のいわゆる専従に任命されたのが選挙の年の2007年1月ぐらいだったかな。2丁目に事務所を構えるのだから、まずは新宿2丁目振興会会長の福島さんに挨拶しなければと。そうしたら単に挨拶だけでなく、選対のメンバーまで快く引き受けてくれてホントに心づよかった。福島さんらの紹介もあって3月に事務所を格安で借りられ、「九州男」(200名超のパーティもできる2丁目最大のゲイバー)でキックオフイベントもでき、これは幸先がいいと。
沢辺 俺の場合は、うちで出した『性という「饗宴」――対話篇』の著者の伏見憲明さんから、大阪でカミングアウトしたレズビアンの府議が国政に出るらしいぞと電話をもらった。するとその直後に昔からの知り合いで民主党の関係者から、実は尾辻の担ぎ出しをしているので手伝ってほしい、専従が必要なので誰かいないか、と。ちょうど(後藤)純ちゃんがゲイ雑誌の編集を辞めてプータローしていたので、声をかけ、俺も声をかけた責任上、選対に首をつっこむことになったというわけよ。
 ――尾辻はゲイコミュニティでどのていど知られていたのか?
福島 2005年の(LGBTによる)東京プライドパレードで、主催者の一人として壇上で挨拶をしたんだけれど、その時たしか尾辻は舞台の袖にいて、私とは挨拶を交わした程度。だから、その時はまさかこの人の選挙をするとは思ってもみなかったわよ。
後藤 僕は尾辻さんが当選した時にレズビアンの友達に「私の友達が当選してん」とこっそり教えてもらっていた。そういう縁もあって、2005年のパレードで尾辻さんがカミングアウトするにあたり、『バディ』編集部として取材をさせていただきました。
 ――LGBTの圧倒的主流はゲイの人たち。Lは圧倒的少数。それをLGBTの代表に担ぐということに、懸念というか問題はなかったのか。
後藤 いや、むしろ“渡りに舟”でしたね。社会運動って、やってくなかで意見の違いで対立したり分派化したりっていうことが往々にしてあるけど、ゲイの世界もそんな感じで……。
 ビアンの人たちはゲイコミュニティの外にいて「しがらみ」がないので、それはそれでちょうどよかった。
福島 ただ、これは敗因の原因分析にもつながるけれど、反面、ゲイからするとビアンはピンとこないのよ。私が店で「尾辻をよろしくね」とお客さんに言っても、大方は「だってビアンでしょ」という反応。そもそも性的マイノリティでまとまろうという意識が当時のゲイにはなかったもの。
後藤 たしかに僕たちの間では、「LとGは近くて遠い」とよく言われますからね。
沢辺 ノンケから見てもゲイは面白いけど、レズビアンは固い感じ。ただもっと退いてみると、戦略的にはよかったと思う。そもそもLGBTという表記が示しているように欧米だってLを先に立てている。多数派が前に出ると運動はうまくいかない。たとえば三里塚闘争の過程で、空港反対同盟代表の戸村一作を選挙に立てたのと同じさ。
福島 沢辺さんの左翼運動のたとえって、私には全然わかんない。
後藤 僕もです。
沢辺 ごめんごめん。これはこの連載の筆者の前田さんに分かってもらおうとした喩えでね。戸村さんって、活動家でも何でもない、地元の人、クリスチャンで人望家だった。だから反対同盟の代表に祭り上げられたって経緯があるわけよ。その戸村さんを参院選に立てて、当選はできなかったけれど、尾辻の10倍の約33万票も取って大善戦した。もしも三里塚闘争の実質的担い手だった新左翼のリーダーを立てていたら大惨敗だったろうね。
 ――戦略的には少数派のLを担いだのはよかったとしても、Lを前面に出しすぎたのではないか?
福島 さっきも店での会話を例に出したけれど、たしかにゲイに距離感を持たれたかもしれないわね。
沢辺 俺は当初から、LGBTへウィングを広げるのは当然として、ノンケにも訴えるべきだと主張したけど却下されちゃった。当時「おひとりさまブーム」だったし、また年金問題もあったから、シングルの女たち、高齢の弱者たち、そして障碍者などの社会的マイノリティにも共感を得るような発信をすべきだと。
福島 当初この選挙をどう打ち出すかを選対で議論したとき、広告屋出身の私は、キリでもっとも痛いところをつつくのがPR戦略の基本だと言って、「レズビアン、国会に一撃」が採用されたんだけれど、それが内向きすぎを招いたとすれば、ごめんなさい。反省しています。
沢辺 いやいや、尾辻が道着を着て回し蹴りを入れているのは、あれはあれでよかった。戦術的には福島さんのキリで穴を開ける一点突破でよかったと思うよ。ただ戦略的にはウィングをもっと広げるべきだったと俺は言いたいわけよ。
 ――もっと前から準備していたら?
後藤 うーん、どうですかね。あまり関係ないんじゃないかな。2年前からやっていたら結果が変わったとは思わない。半年弱の運動だったけど、インナーにはそれなりに伝わったと。それよりも数百万はいると言われるLGBTの主流のGのそのまた主流は、政治に無関心というより、政治と宗教はタブーだから。2丁目でも、自分たちの社会的諸権利を認めてもらおうなんて発想はなかったもの、当時はね。でも、これは後でしゃべるけど、尾辻選挙でその気分も変わりましたけれどね。
 ――メディア対策についてはどう評価するか?
沢辺 実はメディアが一番悩んだんじゃないのかな。尾辻選挙をどう扱ったらいいかと。
後藤 逆に当初、選対では、ひどい扱いを受けるのではないかと怖れていた。
福島 そうそう、そうよ。私なんかは、かつての東郷健や佐良直美のようなおぞましい扱いをされたらと、それを知っているだけに怯えていた。
後藤 その頃、僕は子供だったけど、あんなふうに見られたら嫌だと、強烈なトラウマとして残りましたからね。尾辻さんもそうだったと思う。
沢辺 ノンケの俺は、話題になればいいじゃないか、ぐらいに考えていたけど。でも、福島さん、純ちゃんたちの危惧は杞憂だった。
後藤 あの島田紳助ですらと言ったらなんだけど、興味本位がウリのワイドショー系ですら好意的で……。尾辻選挙の3年ほど前に、テレビでは「おねえブーム」が始まって、それがプラスに作用したこともあったかもしれませんね。
福島 マツコ(デラックス)にもビデオで応援してもらったしね。
(本文敬称略)
(つづく)







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