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評者◆秋竜山
人類のチセイの形・矢印、の巻
No.3202 ・ 2015年04月11日




■〈矢印マンガ〉といえば、マンガ家仲間ではわかるだろう。矢印をテーマにしたマンガである。マンガを描いているものなら一度は描いてみたいだろう。外国マンガなどに多い。自分のマンガの技量をためしてみたいから、それに読者も、「こーいう手もあったのか」と、アイデアに感心したりするものだ。矢印とは、つまり万国共通の↑のマークである。こんな単純化され、人間なら誰でもわかるデザインはめずらしい。人類のチセイの形といっていいかもしれない。本書とはまったく関係ないことだろうが、養老孟司『「自分」の壁』(新潮新書、本体七四〇円)に、〈矢印〉のことがのっていたので、読みながら勝手に思い出したわけだ。〈矢印〉というと、「あっちむてホイ」という遊びを思い出す。矢印だけが書かれてあるカンバンが立っている。無言の矢印であるが、「あっちをみろ」と、いうサイレントである。どーしても矢印の方角をみてしまうだろう。みまいと思ってもみないではすまないはずだ。もしかすると重大な意味があるのかもしれないとか。「これは、まったく意味ありません」と、書かれてあったとしても、みないわけにはいかんだろう。脳がみてしまうのだろうか。矢印をテーマにしたマンガをなぜ描きたがるか? と、いうと、矢印にはなぜか笑いがふくまれていて、人間と矢印の間に笑いが起こる要素が強いからである。なぜだろうか。たとえば、矢印の書かれた立て札の前にたった人物が、その矢印と反対側をみている。それだけで笑えてくるのである。「なにがそんなに可笑しいのか」と、ギモンに感ずる人がいたとしたら、ちょっとひねくれていると思ってよいだろう。
 〈生物学的に見ても「自分」などというものは、地図の中の矢印に過ぎない。〉(本書より)
 矢印をこのようにとらえる発想もすごい。
 〈「自分」とは地図の中の現在位置の矢印程度で、基本的に誰の脳でも備えている機能の一つに過ぎない。とすると、「自己の確立」だの「個性の発揮」だのは、やはりそうたいしたものではない。そう考えたほうが自然な気がしてきます。もともと日本人は、「自己」とか「個性」をさほど大切なものだとは考えていなかったし、今も本当はそんなものを必要としていないのではないでしょうか。〉(本書より)
 自分というものは矢印で示すくらいのものである、といわれると自分が急に安っぽいもののように思えてくる。「なんだ、そんな、ものだったのか」。だからと、いって自分自身をそまつに扱うものではないだろうけど。
 〈そのことは実は脳の研究からもわかっているのです。〉(本書より)
 さあ、どーしましょう。自分を中心に地球がまわっているんだ!! なんて人はなんていうだろうか。脳がそう思っているのだといわれると、「いや、そんなことはない」などと反論もできないだろう。自分にとって脳の存在は絶対的なものであるからだ。そして、やっぱり矢印のことを思い出してしまう。昔のことを思い出した。駅で初対面の人と待ち合わせた。伝言板に矢印と自分の名前を書き、そのわきに立っていた。相手はすぐわかった。矢印の効用。矢印力とでもいうか。







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