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評者◆山本明広(BOOKアマノ有玉店)
ただの否定ではない、進歩のための確かな反論を
近藤理論に嵌まった日本人へ 医者の言い分
村田幸生
No.3201 ・ 2015年04月04日




■いきなりこんなことを言うのもなんだが、私は病院に行くのがあまり好きではない。あれを食べるといい、こういうことをすればよい、などと書かれた本を読んで参考にしながら、出来るだけ病気をしないように気を付けるようにしている。しかし、それでも病気にかかってしまい、出来る限り自力で治そうと思っていろいろやってみるのだが、そうはいってもなかなか簡単には治らず、結局はおとなしく病院に行って診てもらい、薬を貰って治すということが多々ある。そのたびに、やはり医師の診療、薬の処方がなければどうしようもないことがあるのだなと実感する。
 そんな中、あらためて書店の健康書の棚を見まわしてみれば、いわゆる「医療否定本」のなんと多いことか。あろうことかそれを当の医師が書いているというのだから、我々のような医療の素人が読めば目から鱗が落ちるような感じで、影響されてしまう人が多いのは仕方ないのかもしれない。その筆頭ともいえる近藤誠氏の『医者に殺されない47の心得』は2013年の年間ベストセラー第1位(トーハン調べ)になり、100万部以上売れた。氏は「医者によく行く人ほど、早死にする」「抗がん剤は効かない」など、これまでの常識を覆すような独自の理論を展開して、雑誌、テレビなどでも披露している。
 ところが、これらの画期的な理論をインターネットで検索すると、不思議なことに他の医師の反論が多数見つかり、雑誌でも反論が大きく取り上げられたりしている。しかし、こと書籍となるとあまり見ることがない。そんな中、名指しで反論する書籍が出版された。その名も『近藤理論に嵌まった日本人へ 医者の言い分』だ。
 著者はやはり医師の村田幸生氏で、本書では主に専門の糖尿病に関して反論を試みているのだが、ある統計を基にした近藤氏の「薬やインスリン注射で血糖を厳格にコントロールして、延命につながったというデータは皆無」(『医者に殺されない47の心得』45P)という否定に対する反論で、本書の十数ページを要している。これでは学会で論文として発表されたわけでもない「近藤理論」に取り合わない医師が多いというのもむべなるかなと思ってしまうが、専門の医師が反論する書籍を出してこなかったために、医療の素人である一般読者は「専門的な細かいことはよくわからないけど、この本が売れているのだから、この先生が言うとおり、病院に行ったり薬を飲んだりする意味なんて本当はないのか」となってしまっているのである。
 そして近藤氏の本がベストセラーになったことをきっかけに「これは売れる」と数多くの医療否定本が出版され、それらが書店の店頭に溢れるように並んでいるのが現状だ。本来「一方でこんな意見もあるよ」という本を並列展開してどちらを信じるか読者に委ねることこそが書店のやるべきことであるのだが、今回取り上げた本のような、まずはそうした主張をする本が生まれなければ並べようもない。結果、片方の主張が書かれた本ばかりが増え、店頭に置かれていくことで「書店は医療否定の手助けをしている」と思われてしまうのは不本意である。そう考えると、こうした医療否定を正面から反論する本が出版された意義は大きいと思う。
 このような様々な意見をともに並べることで読者に問いを投げかけ、考えるきっかけを与える空間こそが書店という場であり、それを演出するのが我々書店員の役割であり、そういう仕事をしているのだと胸を張って言えるようにありたいと願っている。







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