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評者◆秋竜山
人生におきかえたい登山、の巻
No.3200 ・ 2015年03月28日




■ごぞんじ無人島マンガは世界的だ。そして、登山マンガという分野もある。このジャンルは人気度においては無人島マンガにおとるかもしれないが、マンガ好きの間では無視できないだろう。登山マンガで名のしれたマンガ家もあったりするくらいだ。アマチュアやプロの登山家をマンガで描くわけだが、大人のマンガとして、かなりレベルも高く哲学的な内容であったりする。「そこに山があるから……」で有名過ぎるセリフは知らない人はいないだろう。なぜ、そんなに有名になってしまったのか。深い意味があるような、ないような不思議でおぼえやすいひとことである。世界的共通語のように有名過ぎるということは、やっぱり何かがあるのだろう。無人島マンガには「そこに無人島があるから……」なんていわない。「もし、無人島へ行けたら何を持っていくか?」と、いうのは有名だけど。「あなたは、なぜピラミッドへ登るんですか」「ハイ、そこにピラミッドがあるから」なんて聞いたことがない。世界の富士山だって、そーだ。「そこに富士山があるから……」なんて聞いたこともない。昔、私の知人が仲間に登山にさそわれた。初めての登山らしきものであった。一応登山用具のようなものをそろえたりした。重い荷物になった。その当日、重い登山グツをはき、電車に乗るために駅の階段を上った。そして、上り終えたところでへたばってしまった。これから登山をしようとしているのに、自信をなくしてしまった。それでも、階段を下って引きかえさなかった。そのおかげで目的とする登山ができたのであった。
 五木寛之『下山の思想』(幻冬舎新書、本体七四〇円)。登山ではなく、下山としたところがいい。興味をいだかせる。下山という発想は一種の天才的発想であろう。
 〈これは、しごく当たり前のことだ。登頂したあとは、麓をめざして下山するのである。(略)登山して下山する。それが山に登るということの総体である。厳密にいえば、登、下山、というべきかもしれない。(略)登ることについては熱中できても、下りることにはほとんど関心がない。それが私たちの普通の感覚である。しかし、私はこの「下山」こそが本当は登山のもっとも大事な局面であると思われてならないのだ。〉(本書より)
 「オヤ? どちらへ」「ハイ、登山に」と、いうようなやりとりがあったとする。登山のスタートである。「オヤ? どちらへ」「ハイ、下山に」。これも正しい登山のスタートかもしれない。しかし、いきなり下山といわれたら、めんくらってしまうだろう。これは登山とはいわないだろう。それでも山を登り下りするのだから、それらしきものということになる。
 〈私も一度、牛にひかれて善光寺まいり、といった感じで登山に加わったことがある。なんとか銀座、などという人気コースなので、「こんにちは」「コンニチワー」と声をかけあいながらすれちがう若いグループに、照れくさい思いで小声で挨拶をかえしつつ歩いたものだった。〉(本書より)
 なつかしい光景である。若い女の子などに声をかけられるとつかれが一ぺんにすっ飛んでしまったりしたものだ。これを人生におきかえたいくらいだ。







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