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評者◆秋竜山
きみはいいねえ、幸福で、の巻
No.3199 ・ 2015年03月21日




■色紙に〈幸福〉と書かれてある。誰が書いたかしらないが、字もとりたてて上手とはいえないだろう。しかし、飾るのにふさわしい。とにかく、幸福という意味が素晴らしい。
 〈「幸福」という言葉ほどわかったようなわからないような言葉はめったにありません。おそらくそれが何を意味しているのかはわからないのに、誰もが「幸福になりたい」と思っているのでしょう。〉(本書より)
 佐伯啓思『反・幸福論』(新潮新書、本体七四〇円)。幸福論では、ありきたり。〈反・幸福論〉となると、ちょっとひねくったかな。「幸福なんかにはなりたくない!!」と、いう人の顔を見ていると「幸福になりたい」と、顔に書いてある。
 〈「幸福になりたい」という素朴な感情と、「幸福であるべきだ」という規範は水と油ほど違います。本来、幸福といっても不幸といってもしょせん主観的なものです。健康で衣食住が足りて生活が安定していればよい。だいたいそんなものでしょう。〉(本書より)
 「きみはいいねえ、幸福で」「なにゆーか、きみこそ幸福でいい」「そんなことないよ。俺はちっとも幸福なんてものじゃない」「俺だって、幸福なんてものじゃない」「しかし、俺からみれば、きみは幸福そのものだ」「いや、きみこそ、うらやましいくらい幸福にみえる」。俺ほど不幸な人間はいないと口ぐせのようにいっている二人の会話である。
 〈一体どうしてこの私だけがこんな不幸な目にあわなければならないのか、ということでしょう。かくてどうしても「幸福」を他人と比較してしまうのです。それは、「人はみな幸福であるべきだ」と考えているからではないでしょうか。(略)この「みなが平等に幸福になる権利」という観念はたいへんにやっかいなものです。そのおかげで、誰もが「自分は人並みに幸福でなければならない」と思い込んでいる。だから幸福の基準がいつも他人になってしまう〉(本書より)
 「どーしても、あいつのほうが俺よりも幸福だ」と、そういうくらべる相手が必要なのである.一人ぼっちの場合は幸福も不幸もないということになるのだろうか。「あいつよりも、俺のほうが幸福だ」と、思える人は、お人好しということになるのだろうか。
 福沢諭吉のいわゆる「人間蛆虫論」に本書でふれている。
 〈福沢は「福翁百話」のなかで次のようなことを書いています。現代語に直し、かつ私なりに少し編集して引用しておきましょう。「おろかなことだが、宇宙のなかに地球があるのは大海に浮かぶ芥子の一粒のようなものだ。人間と称する動物は、この芥子の一粒の上に生まれて死ぬだけで、どこから来てどこへ行くのかもわからない。(略)人間など無知無力で見る影もない蛆虫のごときもので、(略)だが、この生まれた以上は、蛆虫とはいえそれなりの覚悟が必要である(略)〉(本書より)
 人間も蛆虫のごときものだといわれてしまったが、人間と生まれたからには、それなりの覚悟が必要だろうと、いっているのだろうか。それにつけても蛆虫はうらやましい。第一、幸福そうにみえる。なんて、思ったらもうおしまいか。いや本当に蛆虫は幸福かもしれないぞ。







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