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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家・尾辻かな子の巻(23)
No.3198 ・ 2015年03月14日




CD発売と結婚式で話題づくり、マスコミ活用も

 以上のメッセージと政策は、「“いかにも議員”な服は脱ぎ捨てて大胆なイメージ転換を打ち出す」という広報手法にもとづいて、各種の広報物に表現された。ちなみに、公費負担で11万枚をまくことができる法定ビラは貧乏にわか選対にはありがたい広報ツールだったが、その表面は、テコンドー着姿の尾辻かな子が拳を突き出し、「レズビアン、国会に一撃!」のメインキャッチ。それに以下のボディコピーが付された。「前大阪府議でレズビアンであることを公表している尾辻かな子が、空手道とテコンドーで鍛えた強くしなやかな精神で、国会にチャレンジ! 格差が広がり弱者が切り捨てられる『美しい国』から、誰もが自分らしく生きられる日本へ」。
 おそらくこれは、この時の参院選で、いやそれ以前と以後の参院選でも、党派を超えてもっとも過激で型破りなビラの一つではなかったろうか。(※図版1)しかし、これだけでは“際物”と見られるかもしれない。そこで裏面では“いかにも議員”な服の尾辻をあしらって、前述の政策をきっちりと訴えた(※図版2)。それでも、推薦人の代表格として小沢一郎とピーコが顔を並べているのが異彩を放って型破りであった。
 この「トモダチ広報大作戦」は公認を得る前から実行に移された。
 1月にアジア一のゲイタウンである東京の新宿2丁目に事務所を構えて、3月には本格始動。まずは元ゲイ雑誌編集者の後藤純一をプロデューサーに、内輪向けのキックオフイベントを新宿2丁目で開催。2丁目最大のキャパを誇る店で立ち見が出る300名超を集客。これに勢いを得て、全国主要都市のLGBTコミュニティへのアプローチも模索された。当時インターネットは選挙では未知のツールであったが、これまた後藤が中心になってLGBT向け応援サイトが立ち上げられた。また、ゲイ向けの月刊誌「バディ」(8万部)の4月号には尾辻のインタビュー、6月号には「同性愛者の政治参加」をテーマにした座談会をふくむ、8ページにわたる参院選特集記事が掲載された。アダルト系雑誌で「政治」が取り上げられるのは異例のことだった。折しも東京都知事選が4月8日の投開票に向けて行われており、現職の石原慎太郎知事に対して市民運動から推されて挑戦していた浅野史郎前宮城県知事が、新宿2丁目に街宣に入り、尾辻が浅野候補と並んで応援演説に立つという画期的シーンが実現した。都知事選で有力候補がゲイタウンに入るのはもちろん、LGBTの活動家と“共闘”するのも初めてのことであり、マスコミにも取り上げられた。これは、LGBT関係者が浅野選対に関わっていたことによる相乗効果であった。
 そして5月17日、正式に公認が決まると、記者会見を行ってマスコミへの全面的かつ全方位の発信を開始。手を変え品を変えての彩り豊かな活動が一気に加速していく。
 6月に入ると、尾辻本人が歌うメッセージソング「WE are OK!」がCDリリースされ、広報ツールとしてだけでなく資金カンパツールとしても活用されることになる。6月3日には秘書役として尾辻を支えてきた元経営コンサルタントのパートナーとの結婚式が名古屋で開催され、二人が「WE are OK!」の曲で祝福されるなか、鳩山由紀夫と小沢一郎の祝電が会場を沸かせた。さらに7月1日には、新宿歌舞伎町のクラブ「MARZ」で内輪向けの総決起イベント集会が持たれ、ブルボンヌらドラァグクイーンのパフォーマンス、当時売り出し中のマツコ・デラックスのビデオ出演に加え、ここでも小沢一郎の野太い声のビデオメッセージが挿入されるという、巧まざるミスマッチ効果に聴衆は大いに沸いた。
 これらの多彩なイベントは選対の思惑どおりに、多くのマスコミに取り上げられた。
 LGBTが他の「業界」と決定的に違っているのは、彼らは組織されておらず、ばらばらに孤立して隠れていることだ。したがって、他の比例代表候補のように支援を受ける労働組合や業界から名簿を出してもらい、そこへ働きかける「地上戦」はできない。選対としては、「見えざる支持者」に向けてマスコミやインターネットを最大限活用するしかない。
 しかし、このマスコミ活用作戦も、タイムリミットと思われた。選挙が近くなると、マスコミは「政治的中立」を名分に、特定候補の記事は書けなくなるからだ。書く場合もテーマを決めて他候補にもほぼ同等のスペースを割いて“公平に”紹介するのが常道である。だが、尾辻選対にとってありがたいことに、尾辻は例外的な扱いを受けた。
 スポーツ紙と夕刊紙にはほぼ全紙に写真入りで大きく取り上げられた。ただしどれも興味本位の「変わり種扱い」で、惹句も「民主レズビアン候補、出馬会見で結婚宣言!」(スポーツ報知)、「同性愛結婚、尾辻氏に民主困惑!?」(夕刊フジ)、「尾辻氏、“でき婚”と同じに見て」(サンケイスポーツ)、「小沢代表も『いいこと』と“歓ゲイ”」(日刊ゲンダイ)といった調子だったが、選対としては知名度アップになればウェルカムであった。
 一方で、真正面から扱ってくれる奇特な一般紙もあった。
 6月17日付の朝日新聞朝刊は、告示まで1か月という“自粛時期”にもかかわらず、「同性愛の元大阪府議、民主が公認。偏見・孤独だからこそ。推定100万人超政治参加『チャンス』」の見出しを立て、なんと7段ものスペースを割いて、丁寧な取材をもとに好意的な記事を掲載。そこではLGBTの支援者たちの声が紹介され、つながりのない彼らへ尾辻のメッセージをつなげる役割を担ってくれたことが何よりもありがたかった。その一部を以下に引用・再掲する。
 「中高生時代は周囲とうち解けられず、『異性を好きになれない自分は生きている意味がないのか』と、自殺を考えたこともある。が、今回は『同じ立場で苦しんできた人が国会で発言する姿を見れば、孤独な人にも希望が生まれるはず』と、個人参加で選挙活動にかかわることを決めた」(大阪で女性パートナーと暮らす介護ヘルパー)
 「今を逃せば、次はいつ同性愛の候補者が公認されるかわからない。票を出せば、我々の存在に気づいてもらえる。このチャンスを生かし、少数者の声を国会へ届けたい」(尾辻の選対メンバーでもある福島光生・新宿2丁目振興会会長)
 「国政に同性愛者を送り出せば、時代が変わる。若いゲイの子が政治に関心を持つきっかけになれば」(ゲイ向けの月刊誌「バディ」営業部長)。
(本文敬称略)
(つづく)







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