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評者◆秋竜山
夢のようなタイムトラベル、の巻
No.3197 ・ 2015年03月07日




■中島義道『明るいニヒリズム』(PHP文庫、本体七〇〇円)では、
 〈過去が「再現」できるのだから、過去はどこかに保存されているはずだ、という誤解からタイムトラベルという壮大なおとぎ話が生ずる。〉(本書より)
 時代に関係なくタイムトラベルがミリョク的であるか。あのマンガチックなタイムマシンにのって未来・過去へ自由に行ける。こんなミリョクあるおとぎ話を考えだした人がすごい。夢だけで生きていた仲間たちと旅行した時。話が「タイムトラベル」の話になった。もちろん誰も専門的な知識はない。マンガ作品を創作するような気分で、それぞれがいいあい話がはずんだ。夜の時間もたっていくと、一人、二人と仲間はねむくなったのか、話の場から姿を消していった。消えていくものは消えていけであって、残っているものはよりタイムトラベルに関心があるものとなる。興味の度合いがコイものということになるのである。
 〈過去へは絶対に戻れない。なぜなら、「戻る」とは空間における場所に戻るのであって、過去とは空間的場所ではないからである。だから、哲学者たちがさまざまな理論を提起して(現に戻れなくとも)理論的に過去に戻れるはずだという論法ほど不合理なものはなく、タイムトラベルは端的に不可能である。過去は、文字通り完全に消滅してしまったのだ。それは宇宙のどこにも保存されていないゆえに、各人の大脳の中にも保存されていない(大脳は単なる微細な物質の塊なのだからかくも巨大な過去も保存できない)。〉(本書より)
 そうハッキリ専門的にいわれてしまうと、夢の中で話しているものにとっては、話のそれから先がなくなってしまうものだ。「だけど、誰もまだ一度も行ったことないんだからなァ」では決定的なセットク力がない。
 〈タイムトラベル可能論は、さまざまな素朴な信仰と推理から成り立っている。それは、リニア時間をそのまま採用し、過去が〈いま〉完全に「消滅してしまった」ことを認めず、それは〈いま〉リニア時間上のどこかに他の場所に身を隠しただけと信じている。とって、そこには努力すれば「戻れる」はずなのだ。〉(本書より)
 努力すれば「戻れる」はずなのだ。という発想がいい。「そーだ、努力すればいいのだ」という夢のようなものがあっていい。努力しても駄目なものはダメ!! と、切り捨てられるより救いがあるだろう(なんの救いかしらないけど)。タイムトラベル論者は、二重の錯覚に陥っている。と、本書ではいう。
 〈第一に、想起を過去の再現とみなす、という錯覚。そして、第二に、過去が想起によって再現できるのだから、過去はリニア時間の「別の場所」にあり、とすると実際にもそこに「戻れる」はずだ、という錯覚である。〉(本書より)
 タイムトラベル論者の存在がよくわからない。信じてよい人たちだったら信じたいものだ。子供だましのマンガでは終わらせられないだろう。
 〈本書の「あとがき」にもあるように、「客観的世界」の爆破後、それに代わる新たな世界像を打ち立てる必要はない。ただ「何もない」のだ、すべてはただの「無」なのだ。〉(本書より)
 なんだかおそろしくなってくる。







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