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評者◆殿島三紀
ディープなインドが香り立つ、本格的ミステリー映画――スジョイ・ゴーシュ監督『女神は二度微笑む』
No.3196 ・ 2015年02月28日




■『深夜食堂』『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』『フォックスキャッチャー』『悼む人』『きっと、星のせいじゃない。』『女神は二度微笑む』を観た。
 『深夜食堂』。松岡錠司監督作品。安倍夜郎原作の人気漫画で、テレビドラマにもなっている。料理を手掛けたのはNHK『ごちそうさん』でも人気のフードスタイリスト飯島奈美。食欲を刺激する罪作りな映画だ。
 『ジミーとジョルジュ』。マチュー・アマルリックとベニチオ・デル・トロという個性派俳優の顔合わせ。片やユダヤ系の精神科医、片やPTSDに悩むアメリカ先住民の帰還兵。フロイト派民族精神医学者ジョルジュ・ドゥヴルーの精神治療記録を原案にした映画。実話である。アルノー・デプレシャン監督。
 『フォックスキャッチャー』。「事実は小説よりも奇なり」を地で行く作品だ。世界的化学会社デュポンの創業者一族の御曹司ジョン・デュポンが1996年レスリングのオリンピック金メダリストを射殺した事件を映画にした。ベネット・ミラー監督。
 『悼む人』。天童荒太の同名小説が原作。9・11アメリカ同時多発テロがきっかけで生まれた本作、見知らぬ死者を悼む旅を続ける主人公を高良健吾が演じる。実際に作家は各地で亡くなった人を悼んで旅をし、3年にわたって悼みの日記を書き続けた。堤幸彦監督作品。
 『きっと、星のせいじゃない。』。ジョシュ・ブーン監督。末期の肺ガンを患う17歳の少女と骨肉腫で片足を切断したバスケットボールの花形選手だった18歳の少年の日々を描いた青春映画。でも、よくあるお涙ちょうだいものではないのでご安心を。
 そして、今回紹介するのはインド映画『女神は二度微笑む』。インド映画といえば3時間以上の長尺もので美男美女が歌って踊って恋をして旅をする、例えていえば、チョコレート&ストロベリー&栗小倉アイスクリームサンデー。甘いものてんこ盛な映画を思い浮かべる方が多いのでは?
 ところが、最近は『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)や『めぐり逢わせのお弁当』(2013)といった静かなインド映画が話題になっている。アメリカを超え世界一の年間製作本数を誇る超映画大国インド。テーマにせよ、それを表現する技術にせよ、半端じゃない。グローバル展開だって考えているはず。というわけで、世界を見据えながらのインド・ミステリー映画が日本で初めて公開される。本作はインドのアカデミー賞といわれるインド・フィルムフェア賞で監督賞、主演女優賞など5部門を独占した話題作。もちろんインド映画ではお約束のゴージャスな美女も登場する。
 行方不明になった夫を探すため、単身ロンドンから巨大都市コルコタ(旧名‥カルカッタ)へ乗り込んできた美しい身重のヒロインが遭遇するさまざまな事件が予想外のラストにつながっていく。その息をもつかせぬ展開は本格派サスペンス・エンタテインメントだ。謎が謎を呼ぶ先の読めない展開にぐいぐい引き込んでくれるところは、さすが映画大国インドのお家芸か。美しいだけではなく強く賢いヒロインがパソコンを駆使して警察のお偉方を味方につけるわ、謎を解くわ、の設定も現代的で気持ちよい。そして、最後の最後で思わぬどんでん返し。世界を意識しつつも、ヒンドゥの女神ドゥルガーの祭りにひそむインドの濃厚な土着性が匂い立つ。実はこのドゥルガー神、優美で麗しい容姿を持ちながら、怖ろしい戦いの女神でもある。この二面性こそが本作のモチーフだ。いやいや、理詰めの展開とおどろおどろしい血の女神の祭り。西洋人の目を通したエキゾチシズムとはまったく異なるディープなインドが香り立つ、本格的ミステリー映画である。
(フリーライター)

※『女神は二度微笑む』は、2月21日(土)より、ユーロスペースにて公開、ほか全国順次公開。







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