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評者◆前田和男
若きLGBT人権活動家尾辻かな子の巻21
No.3195 ・ 2015年02月21日




■同性愛者と異性愛者による異色選対

 当時民主党の代表だった小沢一郎への直談判が奏功し、ついに尾辻かな子に、第21回参議院選挙比例代表への公認が出た。
 そもそも、大阪府議選以来の支援者で国政挑戦への理解者でもあった富永猛(当時自治労大阪府本部書記長)とその友人たちが“工作”をはじめたのが2006年の2月末、党中央へ公認申請書類を提出したのが同年6月末であったから、ほぼ1年も翻弄されたことになる。
 時はすでに2007年5月。7月29日に予定されている参議院選挙の投開票日までわずか2か月しかなかった。しかし、尾辻と支援者たちは座して待っていたわけではなかった。公認がとれることを前提に、2006年末には、選対を立ち上げて「見切り発車」、尾辻の地元の大阪府堺と東京で会議を重ねていた。
 選対の主要メンバーは、尾辻のLGBTの仲間と府議時代から尾辻を応援してきた労働組合や市民運動系ノンケ(異性愛者)――前者にはゲイ雑誌の元編集者、後者の中には同性愛関係の書籍を手掛けてきた出版社社長がいるという異色混成軍で、選挙の実務経験者といえるのは労働組合と市民運動系だった。
 当時は第一次安倍政権下、「美しい国」と「戦後レジームからの脱却」を掲げ、安全保障や教育基本法の見直しなど性急なタカ派強硬路線に加え、お友達内閣と揶揄された閣僚の不祥事と辞任が相次いで与党自民党から民心が離れ、野党第一党の民主党に国民の期待が集まりつつあった。参院選でも民主の躍進、とくに定数48の比例代表では、民主党が自民党を上回って10~12議席を獲得して第一党、その結果、民主党候補の最低当選ラインは10万票台に下がると事情通の間では見られていた。
 これをうけて尾辻選対も「十分に勝機はある」と、いざ組み立てをはじめると、通常の選挙の手法は通用しないことを思い知らされる。
 “玄人”の間ではしばしば選挙は戦争になぞらえて「空中戦」と「地上戦」の組み合わせで語られる。「空中戦」とは不特定多数を相手にした広報宣伝による集票作戦で、マスコミで露出、あるいはチラシを街頭で撒いたりポスティングと称して個別宅に投げ込んだりするやり方である。「地上戦」は支援者の紹介者名簿をたよりに個々に接触したり電話を掛けたり集会をもったりするやり方である。
 尾辻が立候補する参院選比例代表は日本全国から万遍なく票を集めなければならず、マスコミに知られたタレント候補なら「空中戦」だけでいいが、通常は大きな組織(民主党であれば労働組合、自民党であれば業界団体)の推薦・支援をうけてそれをかためる「地上戦」が常道になる。
 すでに各党の比例代表候補者はほぼ出そろっており、自民は農協、遺族会、医師会、看護協会などの業界団体をバックにした候補、片や民主はそれぞれ組合員数20~80万人を擁する日教組、電機労連、電力労連、自動車総連、自治労、ゼンセンなどから10名近い組合系候補が1年以上も前から組織固めの「地上戦」を展開し、マスコミの下馬評では、彼らの多くはすでに当選が約束されていた。
 いっぽう尾辻が頼みとするLGBTの人々は、これまで何度も記してきたように、先進国においては人口の3~7%はいるとされ、日本では有権者8000万人とすると、「票田」は少なく見積もっても200万人になる。そのため選対の一部には「トップ当選も夢ではない」といった楽観論もあったが、そんなに甘いものではないことを指摘したのは、元ゲイ雑誌編集者の後藤純一だった。
 まず「人口の3~7%、200万人」という数字である。彼は、自分はゲイなので、LGBT全体がわかるわけではない、あくまでもゲイの世界の分析に徹すると断った上で、こう指摘した。NHKの調査「日本人の性行動・性意識」(2002)では、日本で継続的に同性と性交渉のある人は全体の1%という信頼できるデータがあり、そこから推計すると、6000万人男性人口の60万がゲイ(またはバイセクシャル)であると(ここには選挙権のない未成年者も含まれているのでゲイの有権者数はさらに減る。そしてLGBTの大半を占めるG〔ゲイ〕の割合を9割と考えても、LGBTの「票田」はせいぜい70万しかないことになる)。
 後に尾辻選挙を紹介してくれることになる朝日新聞の記事中の「用語解説」でも、同様の数字と根拠がこう示されていた。「厚生省の研究班が99年に行った全国調査では同性との性的接触の経験があると答えた男性は1・5%、女性1・8%。単純に人口比で計算すれば100万人超になる」と(なお、その後には、京都大学大学院の日高庸晴客員研究員による「正直に答えられない人もいたとみられ、実際は数百万とも言われる」とのコメントが付されていたが)。
 いずれにせよ、「少なく見積もっても200万人になる。トップ当選も夢ではない」といった選対の一部の読みはかなりの楽観論のようだった。
(本文敬称略)
(つづく)








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